-紫翼-
起章:はじまりの春

08.一人で出歩くな



 横でキルナが驚いた声をあげた気がしたが、正直俺はそれどころじゃなかった。
「むぐぶっ!?」
 救いがあるとすれば、俺の脳天に激突してきたものが特に固くもなく、子供ほどの大きさの塊だったということだ。
 が、痛いものは、痛い。
 俺は無残にもその場に額をぶつけて潰れた形となる。すると降ってきた塊が慌ててもぞもぞと動き出した。
「ご、ごめんっ! 兄ちゃん、大丈夫!?」
 頭上から焦ったような声。どうにか地べたから顔を引き剥がして、俺は落ちてきたものを確認した。
 子供ほどの大きさの塊だと思っていたら、本当に子供だった。そいつも痛かったのか、おしりをさすっている。
 これにはびっくりした。なんだ、俺が記憶を失っている間に、子供が空から降ってくる世の中になってしまったのだろうか。
「すごい世の中になっちゃったんだな」
「ティティルじゃない! どうしたのよ、そんなに慌てて」
「キルナ姉ちゃん! 良かった、人違いじゃなかった! 大変なんだっ」
 納得する俺のことなんかまるで気にしちゃいない様子で会話が飛び交う。ちょっぴり悲しかった。
 どうやら空から降ってきた少年とキルナは面識があるようだ。少年は焦った口調で続ける。
「裏道から連中が騒ぎ出して表通りまででてきてるんだよ!」
 それを聞くとキルナは顔をしかめて聞き返した。
「えっ……落ち組の連中?」
 少年はこくりと頷く。キルナも一瞬嘆息したが、表情を真剣そうな面持ちに変えて頷いた。
「――分かったわ。私は学園に連絡するから、あなたは役所に急いで。場所は?」
「南地区の大通り周辺、カルメーロ爺ちゃんの雑貨屋の辺り!」
 ただならぬ雰囲気を醸す俺たちを見た通行人が何があったんだとざわついている。その中から「ああ、またあの連中?」とか「春だしねえ」とか、そんな声が聞こえてきた。
 さて。以上の会話からわかることを一度整理してみよう。
 まず、どうやらこの空から降ってきた少年とキルナは面識があるらしい。少年は何かの事件をキルナに伝えているようだ。更に、その事件は早急に学園と役所に伝える必要があるらしい。
 そして、もう一つ。
 ――俺、完璧に話に置いてかれてる。
「あとティティル、屋根の上を通るのはやめなさい。今回は下敷きになったのがユラスだったからいいけど」
 いいのか。
「うっ……うー、わかったよ」
 空から降ってきた少年――キルナがいうには屋根の上を通っていた少年は渋々ながらに頷いた。そのままくるりと踵を返して走っていく。
 キルナも自分の使命を全うしようと走り出そうとして――、口も挟めずに棒立ちしていた俺に気付いた。
 あっ、という風に口元に手をやると、
「ごめんなさい、ちょっと用事ができたわ。すぐに戻るから、先に広場の噴水前で待ってて!」
 そう手を合わせて、走り去ってしまった。
 一人、取り残される俺だった。
 ひゅう、と虚しく風が吹いていく。
 周囲の人々も、そこまで大事だとは思っていないらしく、それぞれの時間を取り戻して歩いていってしまった。
「……」
 仕方なく俺は、キルナの言う通り広場で待つことにした。


 ***


 フローリエム大陸南部の大平野に聳える学びの都、学術都市グラーシア。その中心部、中央広場と呼ばれる場所はこの都市の真の玄関口でもある。
 すごい、というのが俺の正直な感想だった。広場というくらいだから、ちょっと開けた程度の空間を予想していたら――それは大違いで。
「おお」
 思わず声がでてしまうくらいに広く立派な光景が広がっている。初めてこの都市に足を踏み入れたときに通ったのだろうが、慌てていたもので全く印象に残っていなかったのだ。
 中央にはキルナが言っていた通り噴水があったが、それも一際大きく華やかなものだ。見上げれば、噴水の横に建つ重厚な時計塔がこちらを睥睨している。そこ一帯が煉瓦作りで統一され、植えつけられた花々が場の華やかさを足していた。
 ぐるりと一周見渡せば、蒸気機関車の駅が時計塔の正面向かいになるようにして建っているのが目に入る。きっと駅からでてくるとまず噴水、その背後に佇む時計塔を拝むことができるようになっているのだろう。
 学園が長期休業に入っていることもあるのか、ぽつぽつと人通りはあるものの、噴水前で遊んでいるような人影は見当たらなかった。
 中央まで歩いて行って、噴水の縁に腰掛ける。もう一度広場を取り囲む壮麗な建造物を見回すと、ほうと息がついてでた。なんともすごい都市である。
 キルナとは一旦別れてしまったものの、俺は既に都市の外形を脳内に描くことが出来るようになっていた。実際にこの都市は、エディオが一言で説明できてしまうくらいに簡単な造りをしていたのである。スケールはちょっぴりケタ違いであったが。
 流石はウェリエルによって設計され、作り出された人工都市である。道も全て方眼に伸びているし、用途ごとに厳密な地区分けがされているのだ。
 くあーっ、とあくびをして空を見上げる。ここのところ晴れ続きだ。ふわふわとやわらかな雲が漂っていて、のどかなことこの上ない。
 キルナの様子からして、どうやらどこかで事件が起きているようだったが、特にこうしている分には誰の悲鳴も聞こえてこないし、誰かが騒いでいる様子もない。
 先ほど人々が『ああ、またか』とかいった感じの声をもらしていたから、きっとこの都市ではおなじみの騒ぎが起きているのだろう。そう思った俺に、緊張感など求めてもらっても困る。キルナだってやれやれという面持ちだったのだ。
「ん?」
 不意に視界の外れに影が見えて、そちらに無意識に視線がいった。
 風を切るはためきの音と共にこちらに飛来する物体。それが何であるか分かるほどに高度を落としたところで、俺は思わず呟いていた。
「セト」
 ――紫色の、鳥。
 俺が目覚めたときに傍にいた、あの鳥だった。
 セトは再会を喜ぶように俺の頭上を何週かして、すぐ隣に降り立つ。あの時と同じ、生粋の紫水晶をはめ込んだような瞳が俺の顔を映し出した。
「久しぶりだな」
 まるで昔から付き合いのある友に会ったときのような心境だ。物を言わぬ鳥だからこそ、一番安心して話しかけられるのかもしれなかった。セトもまた喜びを表すように紫の翼を一度広げてみせてくれる。
「おお」
 普段は小柄だが、翼を一杯に広げられるとその大きさには驚かされる。
「ん、お前もここに住むのか」
 俺はそう言いながら頬の辺りを指で撫でてやった。何日もその姿を見ていなくて、何処か別のところに行ってしまったのかと思っていたのだ。こうして会いに来てくれたのは、ちょっぴり嬉しい。
「そうか、一匹で寝るのが寂しくてやってきたのか。よしよし、俺の胸で思う存分泣け」
 ――がすがすがすっ!!
「申し訳ありません失礼しました」
 額のてっぺんを割らんばかりのクチバシ攻撃に、俺は素直に屈した。つくづく冗談が通じない奴だ。
 そんなとき、ふと、耳の片隅に微かなざわめきを感じ取った。
「あれ?」
 先ほどにはなかった、風の音。
 セトもぴくりとその異変を感じ取って、頭をもたげる。
 そして俺は、気付いた。――いつの間にか、この広場から人気がなくなっているということに。
「んな?」
 そこでやっと只ならぬ事態を認知し、周囲を見回す。
 突然廃墟と化したような空間に聞こえてくるのは、何かの笑い声。しかもそれは聞いて嬉しくなるようなものではない。音量のタガが外れたような、まるで人目を憚らぬ声。
 ああ、これはとても嫌な予感。
「いたー! いたぞー、あの紫頭ー!!」
 突然、そんな声が俺の耳をつんざいた。
 ぎょっとしてそちらを向けば、南の大通りの方から同じくらいの歳の青年が五人程度、わらわらと広場に入ってくるところだった。だがその足取りはどうにも確かではない。顔が真っ赤になっていることからして、随分な量の酒が入っているのだと遠目にも伺える。
 そして嫌なことに、こちらを指差してしきりに何かを騒ぎ立てている。
「俺、ああいう方々と何かやらかしたっけ?」
 とりあえず目覚めてから今日現在までの俺の行動を軽く頭の中で思い描いてみた。
 無論、心当たりなど微塵もない。
「さて」
 どうするか、と俺は考えて。
「逃げよう」
 一瞬で、あっさりと決断を下した。
 そう思い立てば有言実行、立ち上がった俺はくるりと敵に背を向け走り出した。立ち向かおうなどと、そんな無謀すぎることはしたくない。
 だが出来ることなら関わりたくない連中は、そう易々と俺を逃がしてくれなかった。
「コラそこの紫頭! 逃げてんじゃねぇよ!!」
 簡単に回り込まれてしまう。酒が入っているくせに、身軽な連中だ。
 ずい、と俺は行く手を塞がれるように立たれてしまった。誰もがお揃いの卑屈な笑みを浮かべ、こちらを見やっている。
「うん?」
 俺は、彼らの身につけているものに目を吸い寄せられた。
 団結を強める為に全員同じ服を着ているのかと思ったが、――その服は。
「あれ、それって学園の制ふ」
「ユラス・アティルドだな」
 俺の指摘を虚しくもかき消して、リーダー格っぽい青年が腕を組んですごんだ。随分と荒っぽい姿をしていらっしゃる。こうやって見ると先ほどのエディオが可愛いくらいだ。うう、酒臭い。
「せ、セトー、どうしよう?」
 肩に留まっていたとりあえず唯一の仲間っぽい相方に、助けを求めてみた。
 するとセトは。
 ――ばさばさばさーっ!
 そう元気良く大空に向かって羽ばたいていった。
 言い換えれば見事な敵前逃亡だった。
「うおおお! 逃げたー!?」
 今日という日ほど自分に翼がないことを悔やんだ日はない。
 たった一人残された俺は、まさに狼に追い詰められたウサギだった。広場だというのが更にまずい。あまりに広すぎて、気付いてくれそうな人影が見当たらない。
「はは、こいつ鳥にまで逃げられてやんの」
 一人がそう嘲笑して、酒を呷る。いや、それよりも一体俺に何の用事なのだろう。
「おい、紫頭」
 ちなみに俺は髪の毛が紫なのであって、決して頭皮が紫なわけではないんだと主張したいのだが、言ったら更にまずい展開になりそうなので黙っておく。
 にやにやと見下すような目線で、リーダー格っぽい青年が話しかけてくる。出来るならその酒臭い顔を近づけないで頂きたいのだが。
「いくらで買ったの?」
「は?」
 突然の意味不明な問いかけに、俺は訊き返すしかない。
「だからー、受験問題」
「君、学園長と仲いーんでしょ? いいなあ、そういうコネも大事だよねー」
 全員が揃って歪んだ笑みを湛えている。これが世にいう言いがかりなのだとすぐに察知したものの、返す言葉には詰まってしまった。どうしようかな、と考えている俺の表情をどう読んだのか、一人が苛立ちを交えて一歩踏み出てくる。
「なんとか言ってみろよ!! 稀代の天才とか呼ばれて天狗になってんじゃねえぞ!」
 どん、と肩を強く押された。あんまりガタイの良くない俺の体はそれで見事に後ろに飛んでくれる。あっ、腰打つかも――、
 ――ぼよんっ!
「ぼよん?」
 予想していた衝撃はそこにはなく、代わりに奇妙な感触が待っていた。どうやら後ろにあったものにそのままぶつかったらしい。
 はて、ぼよん、なんて効果音がでるようなクッションは――。そう思って俺は顔を上にあげて。
「ひっ」
 喉のひきつる音は俺ではなく、向こうの連中のものだった。
 だがそれは別段俺だけが何とも思わなかったのではなく、俺は単に喉をひきつらせることすらできなかっただけである。
 ――そこには、まさに、という言葉がピッタリなくらいガタイのいいヒゲ面のおっちゃんの姿があった。今度は目の前の青年衆が可愛く思えてくるような顔だった。
 短く刈り込んだ黒に近い茶髪。その身長も体重も計り知れない上、眼光で人を射抜きそうなくらいに据わった目をしていらっしゃる。ついでに、俺はそのお腹にぶつかったらしかった。まるでそのおっちゃんの機嫌を表すかのようにズモモモモ、と黒いオーラが噴き出している。
 ああ。
 グッバイ、俺の平穏なる日々。
「ど、どーも」
 とりあえず笑顔ではらはらと手を振ってみた。もしかしたらこの世に手を振ることになるかもしれないなあと思いながら。
 すると、そのおっちゃんは、スー、と鼻から息を吐いて――、
 ぐんっ、と丸太のように太い腕が持ち上げられた。
 ――俺、マジで死ぬかも!
「い……!」
 こうなるんだったら昨日の夕食のデザートもっと食べとくんだったと思いながら固く目を閉じた。
 だが、鋭く唸った腕は俺の首根っこを掴んで。
 ひょい。
 軽々と持ち上げて。
 すとん。
 ――横にどける。
「……あれ?」
 俺の体はそのおっちゃんのすぐ横に下ろされた。
 そのままぺたんと座る形になる。恐る恐る見上げると、おっちゃんは一歩踏み出して例の青年衆の目の前に立ちはだかった。
「は、ハーヴェイさ……ひっ!!?」
 そいつらは先ほどの威勢は何処にいったのか、ガタガタ震えている。一歩おっちゃんが踏み出すごとに飛び上がって後ずさる始末だ。そりゃあんなおっちゃんに凄まれたら怖い。しかし、名前を呼んだということは面識があるのだろうか。このおっちゃん、もしかしてマフィアのボスだったりするんじゃなかろうか。
 ――ありえる。あの顔だし。
「……このアホが」
 地獄の奥底から聞こえてくるような低い声が、おっちゃんの口から漏れた。次の瞬間。
 ――どかっ!!
 今度こそ、拳骨が一人の脳天に叩き落された。
「ぐえっ」
 カエルが潰れる時みたいな声をあげて、そいつは地に没する。思わず哀れんでしまいたくなるような姿だった。
「ぐはっ」
「ひえっ」
「げぶっ」
 次々と拳が落とされる。逃げる隙も与えない。気がつけばその場は地獄絵図となっていた。
 あっという間に立っているのはおっちゃんだけになる。
 むむ。これはもしかして、俺を助けてくれたって奴だろうか?
「さっさと故郷に帰れ」
 全員をのした後、おっちゃんは彼らを見下ろして告げた。さながら裁判官が判決を下しているようだ。
「――お前らはまだ未来があるじゃねえか、チビどもめ」
 それだけ言い放って、そうして俺にちらっと視線をやってきた。怖い。
「それから、お前」
「は、はい」
 思わずぴしりと姿勢を正す。見上げるくらいの巨体を抱え、ぼきぼきと肩の骨を鳴らしながら、おっちゃんは面倒臭そうに口を開いた。
「暫くは一人で出歩くな」
 ……。
「はい?」
 一体どういうことだろう。
 意味の分からない忠告を残すと、おっちゃんは首を一度南地区の方に捻って、そのまま黙って去っていってしまった。
 ひゅう、と風が吹く中に取り残されたのは突っ立っているしかない俺と、地面に伏したまま泡を吹いている青年衆。そういえばキルナが騒ぎが起きたとか言っていたが、それはもしかしてこいつらのことなんじゃないか。

 役人の人間が慌しくやってきたのは、そのすぐ後のことだった。


 ***


「えっ、からまれた!?」
「ああ、そりゃーもう蛇のごとく」
 戻ってきたキルナは、広場で起こっていた出来事を聞いてこめかみに手をやった。あちゃー、という呟きが漏れる。
 とりあえず騒動が一段落ついて、合流した俺たちは再び大通りを広場から更に南に下っていた。
 あの青年衆は、やってきた役人の人たちに経緯を伝えて引き渡した。もちろんおっちゃんのことも話したが、すると役人の人たちは『ああ、あの人ね』と納得顔で頷いていた。一体誰だったのだろう。
 広場を抜けて通りにでるとそこそこ人通りが増える。だが賑やかさは北の方の通りほどではなかった。こちらはどちらかというと、閑静でかっちりと型にはまったような雰囲気がある。国立図書館が近いせいもあるのだろうか。
「それにしてもあの連中、一体何だったんだ?」
「そうね、突然あんなのにからまれちゃ驚くわよね。あの連中はね、『落ち組』って言われてるグラーシア学園の落第生よ」
 キルナは何処か苛立ったような表情で、その落ち組――俺にからんできた連中について教えてくれた。
「この学園にはね、結構な倍率乗り越えて世界から『有望』とか『天才の卵』とかって評価される子供が集まってくるわけよ。でもね、いくら質のいい卵があったとしても、だからって質のいいニワトリになるとは限らないでしょ? ヒヨコの内に道外してダメな方向に育っていく奴だっているの。この学園、そういうところにシビアな面があってね。あまりに成績が悪い状態が続くと落第させられるのよ。留年もないから、退学だと思ってくれていいわ。そんな落第組を『落ち組』って呼んでるの。だけど、考えてみてごらんなさい。今まで『有望』『天才』って呼ばれてた人が、素直に故郷に戻ると思う? そりゃ大半は黙って故郷に帰ってまた新たな人生始めるわよ。でもね、一部の生徒はプライドにしがみついて家にも帰れず、学園にも行けず、結局あの――歓楽街の方にふらふら〜ってなびいていっちゃうのね。さっきのはそういう連中。この前落第した生徒たちよ。春だからね、タケノコが地面から芽をだすように、そういう連中も増えてでてきちゃうの」
 それで、俺はその出てきちゃった落ち組の方々に捕まってしまった、ということか。
「でもあたしのミスだわ、あたしとしたことがあなたを一人でほっぽっとくなんて――狼の群れにウサギを放り込むようなものよ」
 どうやらキルナが苛立ちを表情に交えているのはそれが原因らしい。
「なんで俺、一人でいちゃいけないんだ?」
 あの時のおっちゃん――そういえばおっちゃんに助けられたことはまだキルナに言ってなかった――にも同じようなことを言われた。
 するとキルナは呆れたように溜め息をついて、ひらひらと手を振る。
「忘れた? さっき言ったでしょ。あなたはとても目立ってるの」
「目立つのがいけないのか?」
「……目立つからああいう連中に絡まれるんでしょ」
 ジト目で睨まれれば、乾いた笑いしかでてこなかった。どうやらこれはほとぼりが冷めるまで一人での外出を避けなければならないようだ。
「さて、一通り回ったしちょっと疲れたわね。お腹も減ったし、店に入りましょっか。お勧めの店があるの。おごるわよ」
「お、キルナお勧めの店か」
「ふふ、まあついてきなさい」
 悪戯っぽい笑みを浮かべてキルナは先を歩いていく。少し妙な予感を覚えたが、俺はその後を追うことにした。いかんせん、ここで放り出されたら俺は何処で昼を食べていいのかもわからない。
 キルナが選んだ店は、広場から南に下ったところにある小さな喫茶店だった。




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