-黄金の庭に告ぐ-
<第一部>10話:岸辺に眠る神の歌

09.少女の唄



 天界へ戻されるその日、風の女神は決意する。
 風の女神の元を訪れた冥王は驚愕した。
 風の女神は愛らしい唇を血のような紅に染め、冥王を見つめて微笑んでいた。
 自ら食した果実が冥界の産物であり、それを口にすれば冥界の住人となることを知りながら、風の女神はその行為を以て、自らの意思を示したのだ。
 冥王の妻となることを、その心に決めたのだ。

 この事実に一層嘆き悲しむ豊穣の女神を哀れんだ天神は
 風の女神に生と死の世を渡る力を授けた。
 こうして、風の女神は一年の間に天界と冥界を行き来することとなった。

 風の女神は嘆く母に歌う。

 母さま、どうか泣かないで。
 例え闇の中でも、私の歌声は変わらずにありましょう。
 例え届かずとも、その間私の歌声は死者を抱く王を慰めましょう。
 私は歌い続けます。

 だからどうか、泣かないで。


 ***


 マリルはベルナーデ家に連れられ、手当てを受けると共に直接ギルグランスから聴取を受けた。彼女はどのような罰も甘受する覚悟で、己の行いを嘘偽りなく話した。
 すると老練の当主はマリルへ、暫くクレーゼの家に留まり、外出を控えるように申し渡した。ガルダ人やエウアネーモス商会の者たちに顔を見られた彼女が報復される懸念があってのことだった。聡明な少女は全てを悟って、ギルグランスに深々と頭を下げた。
 彼女の傷は思っていたよりも深く、肋骨にひびが入り、肩も外れ、縫わなければならない傷が三つもあった。処置が終わる頃には夕暮れになっており、ギルグランスの要請を受けた島長ダールと奴隷が迎えにきてくれた。ダールの涙を見て、マリルは胸が詰まる思いだった。ティレは先に灯台島に返され、未だ目を覚まさないともその時に聞いた。
 灯台島に戻ってきたマリルを待ち受けたのは、ミモルザの平手打ちだった。
 だが三度それが続いたところで止めに入ったのがカリィであったことに、マリルの方が逆に驚いてしまった。
「やめてよ。見てる方が痛いわ。あとマリルに必要なのはお説教じゃなくて手当てでしょ、傷を増やしてどうするの」
 ミモルザは手を止めたものの、恐ろしげにこちらを見下ろしている。毒素は抜けきれていないようで、本当なら立っているのも辛い筈が、彼女の様子は泣きたくなるほどに普段と変わらなかった。逆に寝台から出られなくなっているのはマリルの方であった。
「迷惑をかけて、ごめんなさい」
 ミモルザは目を細めた。
「一発目は弟の企みに気付かなかった分。二発目は勝手に出て行った分、三発目は怪我して帰ってきた分さね」
 そう言って、マリルの四肢を取ってじっくり検分する。ベルナーデ家で軒並み処置をしてもらったのだが、ミモルザはその方法について一々文句をつけた。
「ったく、荒っぽくやりやがって。こんなんじゃ跡が残っちまうさね」
「……はい」
「アンタもだ、マリル。まさか縫われている間、ぼさっと待ってたなんて言うんじゃなかろうね。こういう処置をされたらちゃんと文句を言いな」
「……はい」
「今度からは必ずアタシにやらせるんだ。こんなんじゃベルナーデ家の侍医はヤブ揃いだ」
「……はい」
 はたかれた頬が、今更になってじんと熱くなる。帰る場所が変わらぬ姿であってくれることの、どれほど幸福なことだろう。
「それから、マリル」
「はい」
 ミモルザの手が、肩にかかった。
「これは、家族を失った分だ」
 そのまま抱きしめられて、マリルは痛みも忘れて大泣きした。

 マリルはその後も、ついにアリラムへの面会を申し出なかった。あの弟は然るべき尋問を受けた後に、闘技場で生きたまま魔物に食い殺されるであろう。マリルは彼の行いを洗いざらい証言したし、彼の所持品を調べれば証拠はいくらでも出てくるだろう。マリルは弟を擁護するつもりはなかった。彼の行いを考えれば、極刑は免れまい。それが帝国の法律だ。
 ただ、処刑だけは見に行こうと決めていた。片割れの行く先は、見届けねばならない。供に地獄に落ちることはなかったが、やはりあれは、鏡に映ったもう一つの自分であった。
 都市は騒乱に陥っているようで、クレーゼによれば今日の拝送祭は中止となったそうだ。灯台島の住民もクレーゼの家に集まって過ごすことになった。
 寝台で落ちていく陽を眺めながら、マリルは牢獄にいるであろう弟を思った。母はマリルを助けるためにこそマリルを選んだのだとアリラムは言った。しかし、マリルには分からない。焦がれた男に捨てられた母が捨てたのは、自分か弟か。
 もしかすると、元々どちらとも捨てていたのかもしれない。
 母はきっと、理不尽な世界を憎んでいた。そして別れた男を思い出す自分たちを憎み、地獄に落としてやりたいとさえ思っていたのかもしれない。旅を続けながら、自分たちは母の思いなど考えたこともなかった。想いを胸に押し込めるばかりで、伝えることをしなかった。ならば、もしあの時に母を癒すことができていたなら、あるいは異なる結果になったのだろうか。
 気が付けば、拝送祭の歌を口ずさんでいた。
 ――母さま、泣かないで。どうか泣かないで。私はようやく見つけたのです。私は私の歌を向ける先を見つけたのです。だから母さま、泣かないで。どうか、泣かないで――。
 暗闇に放り出されたマリルは、こうして居場所を手に入れた。母は今、マリルを見て何を想うだろう。
 ――母さま、泣かないで。私の腕が死者の魂によって冷たくなっても、私は歌うことでその胸を温めることができるのです。だから、母さま、どうか。


 豊穣の女神は娘の決心を深く嘆いたが、最後にはそれを許した。
 こうして風の女神が冥界に赴く際は、豊穣の女神が悲しみに沈む冬となり、
 風の女神は地上に戻ると、豊穣の女神の喜びによって大地には春が訪れた。
 実りの戻った大地には稲穂の波が戻り行く。

 それは長い戦乱の傷跡を塞ぎ、人々に平和と繁栄を齎した。


 ***


 胸倉を捕まれて壁に押し付けられ、フィランは微かな呻き声を出した。
「フィラン、どういうこった。テメェらしくねぇ」
 ジャドの表情と声音に忌々しさと遠慮が同居しているのは、フィランから覇気が全くといって良いほど感じられないからだ。フィランは返事をせず、視線を下方に向けている。
 旧市街の件を当主に報告せず、勝手に敵を深追いし、更にはジャドの言にも耳を貸さず危うく命を奪われかけた。当主はこの事態に怒る時間も惜しいようで、フィランには灯台島での待機を命じた。事実上の戦力外通告である。
 フィランの態度の変貌はティレの件が原因だろうが、ジャドとしては何か言ってやらねば気が済まない事態であった。
「何があったんだよ。つーか、なんであの詩人野郎の追跡ができやがった。分かるように話せよ」
 本当に言いたいことはそんなことではない。マリルの一件を通して、フィランの様子は明らかにおかしくなった。否――今までにも何度か心を閉ざしてしまうことはあったのだ。だが、ここまで決定的に表面化したのは初めてであった。
 フィランの全てを拒絶する顔は、豊穣の神殿の夜で見せたものと同じだ。しかしその理由を、頑として彼は語らない。
「とにかく人手足りねぇって知ってんだろ。何ぼさっとしてやがるんだ」
「放っておいて頂けますか」
 事務的で丁寧なその口調に、心が抉られるようであった。
「テメェ。何を隠していやがる」
 とっさに口を出た言葉に、ジャドははっとした。フィランが以前語ったことを思い出したのだ。
 ――僕は昔、仲間だと思っていた人たちを全員、斬り殺したことがあります。
 本国の貴族のはしくれで、帝国軍にいたとしか過去を語らない槍使い。彼は、一体何を考えてこの都市にいるのか。
 黒い水のように沸いた疑念を見通したのか、フィランが薄っすらと笑うのを見て、ジャドは背筋を凍らせた。
「ねえ、ジャド。今、何を考えていました?」
 嬉しそうですらある彼の声。一気に後悔の情が押し寄せてきて、思わず腕を下ろす。
 フィランは視線を合わせようとせず、身体をずらして背を向けた。言葉をかけようとして声にならず、ジャドは代わりに壁を殴りつけた。


 ***


 吟遊詩人を捕らえることには成功したものの、豊穣の都ヴェルスに突如現れたガルダ人の一団が、旧市街を乗っ取って篭城したという報は、瞬く間にヴェルス中に広まった。初めは二人官の指示により自警団から秘密裏に討伐隊が組織されて向かったのだが、瞬く間に全滅し、とうとう隠し切れなくなったのだ。
 ギルグランスは舌打ちしたものであった。ガルダ人の武術に自警団の力量で太刀打ちできるはずがない。自分のところに先に情報が渡っていれば、無駄な戦死者を出す前に手を打てたかもしれないのに。だが、フィランからの報告が遅れたため、ギルグランスが気付いたときには、全ては後の祭りであった。
 マリルの証言を聞くに、ガルダ人の目的は都市の住民の亡者化だ。亡者化に必要な薬草については、ポマス博士の解読文によって判明している。その一つであるレーメラの葉は、マリルの機転によって消失した。仮にレーメラの葉を彼らが手にしていれば、ヴェルス滅亡の可能性は一気に高まったことだろう。それが叶わなくなった今、彼らは最後の戦いを始めた可能性が高い。
「こ、この都市はガルダ人に占拠されてしまうのだろうか」
 二人官の下に緊急招集されたのは都市の主要な任を預かる議員たちだ。都市議員全員を集めては紛糾するばかりであると考えた二人官は正しい。ただ、組織した自警団の壊滅にすっかり弱気になった両名の顔は、恐怖に震え上がっていた。公式には神祇官長であるものの、実際はそれ以上の影響力を持つベルナーデ家の当主は、彼らの前で正直なところを口にした。
「敵の戦力に拠ります。五百名以上いるのであれば、厳しい闘いになりましょうな」
「悠長に言っている場合か。どちらにせよ今からでは本国はおろか州都からの増援も期待できぬであろうが」
 ギルグランスと共に来年の二人官になる予定のトランヴェードが禿頭に脂汗を光らせて鋭く発言する。既に伝令は走らせたが、国境から遠い辺境の属州では、帝国軍の駐屯基地まで馬で三日はかかる。帝国軍の力を借りるのは夢物語だと、その場にいる誰もが分かっていた。
「既に一部の貴族や商人は逃げ出しはじめている。この流れが市民に広がれば、収集がつかなくなってしまう」
 そう弱音を吐く二人官の一人、ティニア家当主のガルモンテは、大柄な身体を小鹿のように震わせた。しかし、誰も二人官を勇気付ける者はいない。都市の自警団が太刀打ちできないと分かっては、ヴェルスの民は亡国の戦士に蹂躙されるしかないのだ。
「ぎ、ギルグランス殿。そなたはガルダ戦役を指揮したのだろう、何か案はないのか」
 ガルモンテに無責任気味に問われ、消沈する議員たちの中にあって冷静に頭を動かし続けていたギルグランスが、言葉を選ぶように口を開いた。
「これは私の推測ですが、ガルダ人の戦力は百名以下であるように思います」
 場にいる全員の視線を受けて、ギルグランスは卓に出された都市の地図を指し示した。
「奴らに奪われたのは旧都市の北側だ。だが、がら空きであった西側は何故か放置されている。奪われた地区の守りに必要な人員はざっと八十名といったところでしょう」
「それはただの推測ではないか」
 もう一人の二人官であるストライン家の当主ザークルが、不安のために強く反論する。しかし、ギルグランスは身じろぎもしなかった。
「もしも彼らの人数が数百に上るのであれば、こんな悠長な事態にはなっていません。今頃都市は血の沼と化しているでしょうな」
「ば、馬鹿な。この都市の人口は五千を超しているのだぞ」
「ガルダ人は五人もいれば百人の村を一夜にして滅ぼします。昼尚暗い森で育った戦闘民族にとって農業都市の市民は、それこそ麦を刈るように屠られましょう」
 長の年月を戦場で過ごしたギルグランスの薄暗い呟きは、ザークルの頬を青褪めさせた。
「更に、いかにヴェルスといえど百名を越えるガルダ人が臭いも残さず潜伏する場所はない。彼らはあくまで少数精鋭と考えるのが正しい」
 ギルグランスはガルダ人に占領された地区を指でなぞった。
「奴らはこれ以上戦線を広げることはできない。ならば狙いは逆に我々を呼び込むことではないかと考えます」
「……お主の言う、人間を……その、亡者にするためにか」
「左様。本日捕らえた吟遊詩人の姉が証言するに、ガルダ人の目的はヴェルスの民を亡者とすることでの帝国への反逆です。一気に亡者化させることが出来なくなった以上、旧市街に飛び込んでくる者を次々と亡者に仕立て、兵力を増強させる魂胆と思われます」
 ギルグランスの推論は、一つの賭けであった。ザークルの主張の通り、ガルダ人の戦力が更に多く、何かしらの理由で現時点で温存しているのであれば――この戦いは詰みである。都市の総力を挙げたとして、その人数のガルダ人と今のヴェルスの戦力で対抗することは不可能だ。
 だが士気を上げねばならぬ今、それを決して口にしてはならなかった。自分たちに出来ることには手を打ち、どうにもならぬことは受け入れる。それが指揮官に何より必要とされる心構えだ。これらの思惑に気付いているのは、この面々の中ではトランヴェードだけであろう。彼は緊張した面持ちで、地図を睨み据えている。
「つまり、こちらから仕掛けるのは奴らの思う壺ということか」
 ガルモンデは気弱なところがあるが、必要な材料を提示してやれば正解を掴み取るだけの能力があった。ギルグランスは是を示し、面々を見回した。
「帝国兵の到着は最速で十日。それまで包囲したまま持ちこたえることが出来れば、戦の女神は我々に微笑みましょう」
「亡者への有効な対策は本当にないのだろうか」
 ガルモンテが呻くように呟いた。
「先ほどご説明したとおり、ポマス博士の解読した文書によれば、浄化用の薬草は確かにあるそうです。しかし生成には一ヶ月以上かかります。今からでは間に合わない」
「そ、その文献を見せてくだされ。都市中の学者を集めて生成を急がせましょう」
「承知しました。その件はガルモンテ殿にご一任します」
 そうは言ったものの、ギルグランスは大して期待はしなかった。学術の都リュケイアと違い、この土地には有能な学者も少なければ設備も不十分だ。無論、成功すれば一気に勝機を引っ張り込むことができようが。
「しかし、十日も持ちこたえよとは、艱難の極みというものだ。自警団の者は既に恐れをなしているぞ」
 二人官ザークルの苦々しい発言は、しかし正しい。彼らにとっての最悪の事態は、伝播する恐怖による恐慌状態だった。
「全ての貴族たちに武術の嗜みのある者の供出を呼びかけてください。剣闘士も使いましょう。報酬を身分の解放とすれば奴らも十分働く」
「待て、解放とするといって、闘技場への身代金はどうするのだ?」
「後ほど都市議員から徴収させれば良い。二人官の約束として取り付ければ後払いでも疑われはしないでしょう」
「都市議院からだと? そんなことを勝手にすれば議員の不満が爆発してしまうぞ!」
 卓から身を乗り出したザークルを、ギルグランスは冷ややかに見返した。
「ザークル殿。甘言、聞くに堪えませんな。都市存亡の危機に直面しておいて、何と小さいことに気を取られておいでか」
 ザークルは押し黙った。ギルグランスの不遜な発言よりも、都市存亡の危機、という言葉が心に突き刺さったのだ。
 長年を戦場で過ごした武人は、底光りする光を湛えて二人官を見返した。
「あなたのお考えのように、怠惰と欲望の虜となったヴェルスが肥えた豚と成り果てているのであれば、我々は刃を持つ狩人に為す術もなく屠られましょう。豚が己を狙う矢の鋭さに気付くのは死の瞬間のみです」
「口を慎め、ヴェギルグランス」
 我慢がならないというように声を荒げたのはトランヴェードであった。場にいる中で唯一ギルグランスと並ぶ長身を持つ彼は、ベルナーデ家当主を正面から睨み据えた。
「ヴェルスを捨て帝国辺境を遊び歩いた貴様の目は北の寒さに盲いたか。ヴェーラメーラの加護あるヴェルスを卑しき獣に例えるとは、貴様は女神の呪いも厭わぬようだな」
 トランヴェードはそこまで怒りの感情のままに放ったが、ふとギルグランスの眼を見て、忌々しげに頬を歪めた。ギルグランスが都市議会の反感を煽り、抵抗の気概を起こさせるためにあえて放言を口にしたのだと気付いたのだ。
 だが、尚もトランヴェードの表情は彼の意思を表して燃え盛っていた。
「貴様は五年前の帰郷の折、我々都市議会を腰抜けの集団と評したな。成程、帝国軍で大層高く留まっていた貴様に、ヴェルスはさぞ神に見放された魔都に思えたろう。しかし、いくら貴様が付け焼刃の力を発揮したところで、ヴェルスに生涯を捧げ辛酸を舐めながら闘い続けた者の志には決して敵わぬ。このことをよく覚えておけ」
 トランヴェードが吐き捨てると、ギルグランスはむしろ面白そうに目だけで笑った。ヴェルスの最後の良心と言われたトランヴェードは、己の矜持に生きることが出来る数少ない男であった。
「城壁の警護は必要最低限とし、旧市街の包囲に回す。私が最前線に立てば士気も上がろう。配置を決める故、各自供出できる戦力をお教えいただきたい」
「トランヴェード殿が前線に立つのか!?」
 ガルモンテが瞠目すると、代わりにギルグランスが目を光らせた。
「主が後方にいて良いのは優勢時のみです。特にトランヴェードの場合、よく目立ちますからな。士気もさぞあがりましょう」
 自分の頭を指して言うギルグランスに、禿頭の当主は殺意を込めた目線を向けたが、一刻を争う今は議論を進めることを優先させた。ギルグランスもまた、鷹のように目を光らせ、その智謀を巡らせていた。

 同時刻、ギルグランスの命令によりエウアネーモスの尾行に向かったオーヴィンは、かの商人の家がもぬけの空であることに、先手を取られたことを悟らねばならなかった。

 そして同時刻、ティレは寝台で死んだように眠っており、悄然とした若者が座ったままその顔を見下ろしていた。

 夜の帳に包まれたヴェルスに、不気味な風が吹いている。
 天上の神々は残酷な沈黙を守り、まるで地を這う人間の力を試すかのよう。
 漆黒の闇の手を払いのけようと、必死にもがく人間の力を試すかのよう。
 かつて黄金の庭と謳われた豊穣の都も、帝国の属州に下り早百年。
 生み出される豊かな作物によって栄華の灯火を守るかの都市は、今、黒い嵐に翻弄されようとしていた。




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