-Bitter Orange,in the Blaze-
上・灰色の時代 四.あたたかな雨

053.雪の精



 雪にけぶる視界の奥底で、小さな少女の姿が見える。
 純白といっていい肌はこの白い雪と同化してしまいそうにさえ思うのだが、流れるような長い黒髪が彼女の存在を訴える。
 雪が風に揺れ、髪もまたなびいた。
 その瞳には、朝の日を浴びた泉よりも美しい光が宿り、口元は微笑んでいた。
 それは北の果ての大地。
 冷たい空気と雪の中。
 そんな場所には、一人の雪の精が住んでいた…。


 ―――ねえ、知っています? …エディル様のお子様の噂を。

 ―――…いえ、存じ上げませんが…。なにか問題でも?

 ―――問題だなんてとんでもない! …それは美しいお嬢様で、各地で評判だそうです。

 ―――それはそれは…。お目にかかれるのが光栄ですね。

 ―――ええ…。ほら、いらっしゃったわ。


 ―――フィープ・セル・エスペシア様よ。


 誰もが息を呑んでいた。
 屋敷に静々と現れたのは、まるで本の中に住んでいるような小さな少女。
 艶のあるやわらかな長い黒髪。
 朝の泉の煌きを灯した瞳。
 透き通るようで、寒さに少しだけ紅がさした白い肌。
 そして、月のように微笑むその表情…。
「美しい…」
 感嘆した誰かが、そう呟いた。
 それ以外の言葉が見当たらないほどに、美しく静かな娘だった。
「エスペシアの家長の子にふさわしい」
 娘の仕草に誰もがそう言った。
 彼女は真っ白なドレスの先を指で軽く持って、軽く頭を垂れる。
 そして顔をあげて、微笑んだ。
 心を溶かすようなやわらかな微笑みを…。
「まるで…」
 いつのまにか、その少女には通り名がついていた。
 エスペシアに生まれた聖女は、いつだって微笑みを欠かすことがなかった。
 手を軽く口にあてて鈴のような笑い声を漏らせば、誰もが顔を緩ませた。
 椅子に座っているだけで、数多の人を魅入らせた。
 …貴族の世界に、小さな白百合が咲いたように。

「…まるで、雪の精のようだ」

 誰もが言った。
 北の果てには雪の精が住んでいるのだと。
 真っ白なドレスを着て、その黒髪を冷たい風になびかせて。
 そして、雪の中で微笑んで。
 高貴なエスペシアの血を継ぎ、美しさと礼儀をかねそろえた少女。
 どこにも非の打ち所など見当たらなかった。
 勉学の出来はいつでも教師を驚かせた。
 静々と通路を通っていれば、どんな人でもすれ違うと頭をさげた。

 北の果てには雪の精がいた。
 絶え間なく降り注ぐ雪の中に静かに佇む精霊がいた。
 名前をフィープ・セル・エスペシア。
 全てを担うにふさわしい、少女だった…。

 そしてその雪の精が7歳になった、誕生日の日のこと。
 厳格な父親は、少女を部屋に呼び出した。
 外には、けぶる雪が降り注いでいた。
「お父様、お話とは何でしょうか」
 その日も雪の精は白い服を着ていた。長い黒髪は背中に流れて、僅かに揺れていた。
 威厳を感じる父親は、そんな子の姿に目を細めて、言った。
「勉学はきちんとこなしているようだな」
「はい」
「サドロワ家の者が褒めていたぞ。幼いのに礼儀がなっていると」
「ありがとうございます」
 雪の精はまた微笑む。優しく儚い微笑みを。
「それで…だ。今日からお前の専属教師も兼ねて護衛を遣わすことにした」
 そう言って、後ろに目配せをした。
 …そこには凛とした青年が一人、彼女に魅入っていた。
 茶がかった銀の髪。すらりと高い背。森を連想させる深い緑の瞳…。
「…イシュトだ。一通りの勉学は出来るし、剣の腕もかなりのものだ。きっとお前を導いてくれるだろう」
 その時のことを雪の精は一生忘れないだろう。
 そして、その青年も。


 ―――イシュト・フィン・エキュラルと申します。


 ―――今日から、あなたをお守りさせて頂くために参りました。


 ―――行き届かぬ点あると存じますが―――、



 ――――あなたを、この命にかえてお守りするとここに誓い申し上げます――――



 窓の外には無言で振り行く雪の白。
 雪の精が住む館は、真っ赤な絨毯が広がって。
 そこに跪いた一人の青年は。
 胸に手をあて、その雪の白さに賭けて誓った。

 顔をあげた青年を迎えたのは、雪の精の笑顔。
 見るものを幸福にする、微笑み。
 黒髪をわずかに揺らせて、その泉色の目が静かに微笑んでいた。


 北。
 果てしなく、北の地は。
 身を刺すような寒さと降り注ぐ雪だけがあって。
 そして、雪の精はそんな地で微笑んでいた。


 青年は、雪の精を妹のように愛した。
 雪の精もまた、青年を兄のように慕った。
 二人はいかなる時も共にいた。
 振り行く雪を背景に、真っ赤な絨毯の上で。
 ―――静かに微笑んでいた。


 まるで夢のように日々が過ぎていた。
 青年は毎朝起きると、庭園から花を摘んだ。
 その花を両手に抱えて、雪の精が眠る部屋を訪れた。
 まずは花を窓辺の花瓶に飾って、

 ―――そして、窓を開け放つ。

 吹き込む、冷たくどこまでも澄み渡った空気。

「フィープ様」

 風にのせて部屋に流れ込む、花の香り。
 甘くやわらかな、色とりどりの香り…。
 始めは青年の呼びかけで雪の精は目を覚ましていた。
 しかしそれは時を重ねていくごとに―――。

 …雪の精は、開け放った窓から流れる風に乗った花の香りで、目覚めるようになった。

 その瞳に光が宿ると、きまって青年はいっぱいの笑顔をつくる。
 そして、言う。

「おはようございます、フィープ様」

 目を開ければ銀に煌く青年の姿。
 優しく笑う森の瞳。
 部屋に吹き込む、新しい空気。
 全てが始まるような、一日の始まり。
 そしてまた、雪の精も微笑む―――。

「…おはようございます、イシュト」

 青年は花の名前を雪の精に教えた。
 毎日違う花を持ってきて、その名前を口にした。
 花なんて世界中に幾万と種類があるもので。
 それが終わることなど、なかった…。


 降り続く雪の中に、二人は住んでいた。
 青年が微笑めば、雪の精は微笑んだ。
 雪の精が微笑めば、青年は微笑んだ。
 日に日に雪の精は勉学に勤しむようになり、
 日に日に美しさは増すばかりだった。
 青年が傍にいるだけで、雪の精は嬉しくなった。
 その瞳の色を深くさせて、艶のある黒髪をわずかに揺らせて。

 雪の精が知らないことは、全て青年が教えていた。
 どんなことからも青年は身を挺して小さな精霊を守った。

「イシュト」

 幾度となく呼ばれるその名前は。
 いつだって青年の顔をほころばせた。

 青年の幸福は雪の精の幸福だった。
 雪の精の幸福は青年の幸福だった。

 二人は決して触れ合うこともなかったが。
 …なにかが二人を結び付けていた。


 もしかしたらそれを人は、絆、と呼ぶのかもしれない…。


「フィープ様、お風邪を召しますよ」
 ふいと雪の精は顔をあげた。
 そこにあるのは優しい青年の微笑み。
「…そうですね」
 雪の精は呟いて、窓から差し伸べられた手を戻すと、その窓を閉め切った。
 白く小さな手は濡れそぼって、寒さに赤くなっていた。
 青年はすぐに布を取り出して、差し出す。
「ありがとう」
 冷たい手にぬくもりを感じさせる純白の布で水気をとると、雪の精もまた微笑む。
「…明日は晴れるといいですね」
 青年は窓の外に目を向けて言った。
 北の地方はただ寒い。
 冬は一面の雪に閉ざされる。
 …しかし、春になれば雪は溶け、夏に雪が降ることはない。
 その時に空から降り注いでいたのは、雨だった。
 音をたてながら、灰色に降り注ぐ雨…。
「…イシュト」
「はい」
 雪の精もまたその窓から灰色の空を見上げ、言った。

「…どうして、雨は冷たいのですか?」

 まだ、十にも満たない少女だった。
 大きな泉の瞳に煌きを宿して。
 小さな小さな体で、問うた。

「…雨は天からの贈り物なのに……」

 雪が天の囁きだというなら、雨は天の叫び。
 雪は手をすりぬけてさらさらと落ちていく。
 しかし、雨はただ……冷たい。
 冷たくなった手を反対の手で包むようにして、雪の精は青年を見上げる。
 …青年は、少し困ったように笑ってから―――、言った。
「…それは、ここがとても気温の低い地方だからです」
 誰もいない長い通路だった。
 幾つもついた窓からは雨がしきりに降り注ぎ、絨毯はいつものように深い紅だった。
 その絨毯によく映える白いドレスを着た雪の精は、もう一度問うた。

「それなら…あたたかな場所では、あたたかな雨が降るのですか?」

 ―――青年は、いつものように微笑んでいた。



「…そうですね…。ここからずっと、…ずっと南に行けば―――、そんな雨も降るかもしれません」



「…南……」
 雪の精は、口の中で呟く。
 耳でしか聞いたことのない、その地の情景を―――。
 空から降るあたたかな雨。
 湿気た空気もまるで心地良い。
 全てがぬくもりを持って、そこにある…。
 雪の精は、そんなやわらかな情景を夢見た。
「…いつか…そんな場所があるなら、行ってみたいですね…」
 遠くを見る目で夢見心地に呟く雪の精に、青年は手を胸にあてて囁いた。

「―――その時は、私もお供します」

 それは記憶に刻まれたたった一行の物語。
 しかし深く深く、刻み込まれた雨の情景。
 雪の精はあたたかな雨を夢見ていた。

 その体が、溶けてしまうにもかかわらず…。

 もし、その雨の中にいられたらと―――。



 青年は、雪の精さえいれば他は何もいらないとさえ思っていた。

 雪の精もまた、青年さえいれば。

 何一つとしていらないと、思っていた。

 あたたかな雨に焦がれる雪の精は。

 この青年と共に、そんな南の地へいけたらと。

 ずっとずっと、願い続けていた―――。



 ―――あのお二人は本当に仲がよろしくて。

 ―――でもイシュト様はあそこまでフィープ様に入れ込むなんて、まるで…。

 ―――まさか。イシュト様は才能はおありになっても、下の貴族ですよ。フィープ様とつりあうわけはないでしょう。

 ―――しかし狙っているという可能性がないわけではないでしょう。フィープ様もイシュト様を慕っているようですし。もしイシュト様が手をだしたら…。

 ―――そうなったら、エスペシアはどうなってしまうのですか。エディル様がお許しになりませんよ。

 ―――全く困ったものですね、イシュト様も。身の程を知るということがないのかしら。



 時は巡る。巡り巡る。
 冬になるとまた雪が降る。
 春になると雪が溶ける。
 夏になると冷たい雨が降り…。
 秋になるとまた気温が落ちていく。
 時は巡る。巡り巡る。
 雪の精はそれは美しく成長し、
 青年はずっとその傍で尽くしていた。



 青年は、いつのまにか貴族たちの非難の的になっていた。
 公にそれが語られることはない。
 しかし、誰の心をも奪う雪の精の一番傍にいる青年は、勝手ないわれをつけられて、雪の精を狙っているのだと囁かれた。
 得に青年はそこまで高い身分ではなく、その才能と学力を認められてこの地まであがってきた者。
 青年は他から卑しいものとされて、影で蔑まれ憎まれた。
 しかし青年はそれでも微笑んだ。
 青年は、雪の精が笑ってくれればそれでよかったのだ。
 それを知っていた雪の精は、勤めて笑うようになった。
 雪の精が笑えば、青年も笑うのだ。
 だから雪の精は微笑んだ。
 雪の精は青年を慕っていたから。


 青年の笑顔を、愛していたから…。


 青年がいれば、それでいいと思っていたから…。


 青年は、雪の精の笑顔を見て、雪の精が幸福なのだと思った。
 雪の精は、青年の笑顔を見て、青年が幸福なのだと思った。


 しかし本当は、どちらも苦しくて仕方なかった…。


 あるとき、青年が他の者に呼ばれて傍にいなかった小さな時間。
 暇を持て余した雪の精は、地下の図書倉庫に向かった。
 そのとき雪の精は14歳にまでなり、膝まで届く長い黒髪を宙に遊ばせていた。
 初夏のその日は、雨が降っていた。
 冷たい冷たい雨が、降っていた…。
 そこで雪の精は、一冊の古びた本を見つけた。
 今までにありとあらゆる本を読んだが、その本を読んだ覚えはなかった。
 …物語だった。
 古ぼけて趣深い本は美しく装丁され、雪の精をみるみるひきこんでいた。
 赤いカバーを開き、茶色くなった紙に刷られた文字を、読んだ。
 それは長い長い、どこまでも続くような物語だった。



 一人の姫と騎士の童話、だった。
 とある城に住む幼い姫と、彼女を守るために遣わされた騎士が主人公だった。
 姫はこの世の全ての美を集めたように美しく、どこからも評判をかう乙女だった。
 そんな姫に遣えることになった騎士は彼女に恋を抱いてしまった。
 しかし騎士にできることは、姫の世話だけ。
 姫はいつしか違う国の王子へと嫁いでいくためにいたのだから、騎士に手がだせるはずもなかった。
 だから心優しい騎士は、せめてもと勤めて姫の世話をした。
 雨の日も、風の日も、雪が降る日も、日が熱く照りつける日まで。
 騎士は姫の傍で、毎日のように花を贈り、歌を歌い、本を読み、そしてどんな災いからも姫を守った。
 姫もそんな騎士のことが大好きで、いつも騎士の傍で幸せそうにしていた。
 いつのまにか姫は、騎士とずっとずっと共にいられたらと考えるようにまでなっていた。
 ああ、もし私が姫ではなく一人の少女だったらと、姫は嘆いた。
 そうしたらきっとあの人と共に、ずっとずっといられるのに。
 しかし、そんな声が姫の部屋からしてくるのを、王様は聞いてしまった。
 身の程知らずめ、と王様はすぐに騎士を呼び出した。
 私はお前に姫を守れとはいったが、愛せよとはいわなかったぞ、と王様は言った。
 申し訳ございません、と騎士は謝るばかりだった。
 怒った王様は怒りにまかせて騎士の両目を、二度と姫を見ることができないように潰してしまって、遠い草原へと追い払った。
 姫は騎士がいないのに気付いて、王様に聞いた。
 ねえお父様、あの人はどちらへ?
 王様は答えた。
 お前があまりに身勝手な女だから、遠い国へ去ってしまったよ、と。



 ページをめくる手が、止まっていた。
 動かなかった。


 ―――私はお前に姫を守れとはいったが、愛せよとはいわなかったぞ、と王様は言った。


 その文章が、幾度となく心に刻み付けられていた。
 ずっとずっと目を逸らせていたことが、目の前に物語としてあった。
 そして、その行方は…。

 祈るように、次のページをめくった。



 そんなことあるはずがありません、と姫は言った。
 私は彼の前でずっと笑っていました、彼のいうことならなんでも聞きましたと、姫は言った。
 それがいけなかったのだと、王様は言った。
 彼は笑っているだけの娘などつまらないと思っていたのだ、そんなものは人形にしかみえなかったのだと、王様は言った。
 姫はその場に泣き崩れた。
 それからしばらく経ったが、姫は一人だった。
 あまりに姫は騎士と共にいすぎたがために。
 侍女も召使も、誰一人として仲良くなったものがいなかったのだった。
 姫はたった一人で部屋に閉じこもるようになった。
 鳥が囀るのを聞いても、笑わなくなった。美しい花が花瓶に飾ってあっても、涙しか流さなくなった。
 次第に姫はやせ細り青白くなり、美しさが失われていった。
 そんな姫に近付こうとする王子などいるわけがなく、姫は一人でベットに寝ながら一日を過ごすようになった。
 騎士も同じだった。
 見ず知らずのところでたった一人でいて、誰も手を差し伸べてくれなかった。
 あまりに騎士は姫と共にいすぎたがために。
 知り合いなど、どこにもいなかったのだった。
 誰もいない草原を、目も見えないままに騎士は歩き続けて…。



 そこで思わずばたん、と本を閉じた。
 その場には誰もいなかった。
 地下の図書倉庫など、必要なとき以外に来る人もいないのだ。
 しかし、それ以上に。
 それ以上に―――。


 よろめいた足で体重を支えられずに、机に手をついた。
 …そこで、机に置き去りにされた本をまた見つけた。
 それもまた物語だったのだが、

 それは、現実の物語だった。

 家の記録を綴ったその文章は、雪の精を打ちのめすのには十分なもので。

 雪の精の母親を極めて冷徹に分析した文章と、
 その行動を事細やかに書かれた記述、
 そしていかにして全ての証拠を隠滅したかが余すことなく書かれた、記録。


 冷たい雨が降る日だった。
 雨は、冷たすぎた。
 涙だけが、暖かかった。
 心に映るのは、優しい微笑み。
 痛いくらいに好きだった、彼の微笑み―――。

 雨がこんなに痛いものだと思ったことがあったろうか。
 けぶる視界の中を、走った。
 だんだんと遠ざかっていく屋敷を幾度も振り向き、

 …思い出しては涙した。


 痛い、痛いと胸が叫んだ。
 戻ってしまえと心が訴えた。
 このまま戻ればいい、あのあたたかな屋敷にいればいいのだと。
 この重苦しく冷たいだけの雨も、もっと冷たくなれば美しい雪に変わるだろうと。
 しかし―――。

 いつかはついえてしまう微笑みを知ってしまった雪の精の足は、前にしか進むことはなかった。

 そうだ。
 雪の精は、そこまで。
 そこまで―――。


「…好きだったよ………」

 その涙は彼女の顔を洗い流すのだろうか。
 それとも汚すのだろうか…。
「嫌いになれるわけ……ない……っ…!」
 ただ、既にその頬は赤く染まり、いっぱいに濡れて…。
「大好きだったよ……! イシュトがいて、ずっと幸せだった…!」
 堰を切ったように言葉が溢れる。
 今まで溜め込んで言えなかったものが、全て…。
「離れたくなかった! ずっと一緒にいたかった…、もっと花の名前も教えてほしかったし、本も読んでほしかった…、ずっと一緒に……っく……あぅ……っ…」
 今にも崩れ落ちそうなくらいに小さく、泣く。
 結い上げた黒髪が揺れていた。
「でも、………わたくし……ううん、ボクは……!」
 真っ赤になった目で、イシュトを見上げた。
 初めて見る少女の涙に、どうすることもできない青年を…。


「…イシュトに前を見てほしかっただけなんだ……」


 そう、少女は嘆く。
 また嗚咽が混じって、涙が瞳から吹き出ていた。


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