-Bitter Orange,in the Blaze-
上・灰色の時代 四.あたたかな雨

051.隠れた月の面影



 暗い。
 …どこまでも、暗い。

 ―――イシュト。

 ―――今日はどちらに行くの?


 ―――…そう。…いいえ、わたくしは大丈夫。


 ―――はい。正午ですね。

 ―――…ありがとう、イシュト。


 手を伸ばせば届く場所にいた雪の精。
 命をかけて守ると跪いて誓った少女。
 いつだってその何処までも澄んだ瞳で、
 自分に向かって問いかけてきた、いとしい子。


 ―――どうして雨は冷たいのですか?


 ―――雨は天からの贈り物なのに。


 あの日の、冷たい雨に濡れた白い手…。


 微笑めば、返ってくる優しい笑顔。
 しかし手を触れることを禁じられた自分。
 ただ、傍で。すぐ傍で。
 だけれどそれでも、幸福であることに変わりはなかった―――。

 なのに、何故………。

 暗い。
 …どこまでもどこまでも、暗い。
 心に灰の霧がかかり、何一つとして見つけることができない。
 見失ってしまった大切なもの。
 たったひとつの、かけがえのないもの―――。

 フィープ・セル・エスペシア。

 糸はからまったまま、彼を縛り付けている。
 そうして彼は迷夢に迷い込んだまま―――。

 …部屋という空間の中、イシュトはかきむしりたくなるような心の痛みに耐えて。
 出口の見つからない虚空の先を探そうと、…しかし見つけられるわけでもなく。
 ただ、ただ、―――椅子に座ったまま、机に伏していた―――。


 ***


「…手足の自由は封じておりますが、かなりの武術の使い手と聞きます。ご注意ください」
「わかっている」
 兵士は頭を下げて、持っていた鍵で扉を開いた。
 中に窓はなく、ランプの灯りだけが薄暗く中を照らしている。
 石で出来た狭い部屋の奥…彼らと数メートルも離れていないところに、…緋色の髪の少女は、いた。
 手を後ろで組み鎖に拘束された彼女は、座り込んだまま頭を垂れていて髪で顔が見えない。
「…まだ意識が戻っていないのか」
「はい。…そろそろ薬の効果が切れる時間なのですが……、起きたらまたお呼びに参りましょうか?」
「いや、いい。中で待つことにする」
「はっ」
 兵士はまた深々と頭を下げた。
 男はゆっくりと中に入って、重い鉄の扉を閉める。
 ばたん、と扉が閉まると…廊下の灯りも届かぬ部屋の中は更に薄暗くなり、その部屋は全てから隔離されたように静寂に落ちた。
 …エディルは部屋の中央においてあったさびれた椅子に座り、…娘を眺める。
 彼岸花のように豊かに咲く緋色の髪。短く切りそろえられていて、その中に見え隠れするガーネットピアスを引き立てる。
 …だが、平民の娘がガーネットのピアスを持っているということは財力からしてほぼありえないといっていいだろう。
 もしかしたら元は良い家の出だったのかもしれない…。大粒のガーネットはランプに照らされて永遠の煌きを灯している。
 むきだしになったしなやかな白い腕は確かに少女のものだ。しかし長い旅の中でそれは傷つき、…貴族界ではお世辞にも美しいといえるものではない。
 ただ俯いて半分隠れた顔には、そこらの娘とは違う何かの威圧に似た強さを感じる…。
 こうしてみると、思っていたよりもずっと小柄な娘だ。
 武術の腕がかなりあるという事実が嘘かと思えるくらいに―――。
 この娘とフィープは一体、どんな会話をしながら旅をしていたのだろうか。
 そしてこの娘は、フィープという正体を知ったときにどう思ったのだろうか―――。
「なにか用?」
 エディルの目が不意にはじけた。
 今まで閉じていたと思っていた瞳が、灼熱の炎の色を宿してこちらを見上げている。
「…目覚めていたのか?」
「おかげさまで気分は最悪よ」
 声も年相応の娘のものだ。しかしその温度は、冷たい。
「…すまないな。もう少し素直についてきてくれればもっといい部屋に案内できたのだが」
「それは良かったわ。私、豪華すぎる部屋は好きじゃないから」
 ―――ピュラが笑うと、耳のピアスが揺れてちらっと煌いた。
 エディルの瞳がゆっくりと細くなっていく。
「そうか。…ここはグリムリーズのエスペシア家の別荘の一室。私はエディル・レド・エスペシア、フィープ……お前たちがセルピと呼んでいた娘の父だ」
「――6日間は手を出さないって言ってたのに、…こんなことするとあの子を怒らせるだけじゃないの?」
「ああ。だから君は丁重に扱わせてもらう。君は客人だ。イシュト…あの男が言っていたろう、…明日の朝には解放すると」
「へえ、エスペシア家は客人を鎖で縛っておくのね。初めて知ったわ」
 ……エディルは押し黙って彼女を見据える。
 それだけで体が震え上がるような威厳を感じさせるのだが、彼女は同じ真っ直ぐな目で彼をにらみ返す。
 橙色の炎のように、ゆらゆらと燃え上がり光を弾かす視線…。
「私を殺す?」
 口元に笑みが走った。
 挑戦的でいてそれ以上の輝きを放つ彼女の言葉は石の部屋に響き渡る。
「…出来ないでしょうね。そんなことしたら最後、あの子は絶対に戻らないわ」
「………」
 エディルは何も言わない。しかしひるんでいないのも確かなものだ。
 岩のようにじっと座って、彼女の言葉に耳を傾けている。
「……それに、こんな手をつかってくるなんてよほど切羽詰ってるみたいね。私に何をさせようっていうの?」
 …そこまでいうと、ピュラも声を切ってエディルを見上げる。
 暫く重い沈黙が落ちた。しかしお互いに視線を逸らすこともなく―――、
 ……先に視線を逸らしたのはエディルの方だった。
 目を閉じて、吐息を一つ。
 そしてその目がゆっくりと開いて、改めてピュラを見据える。
 セルピと同じ、朝の泉の色だ…。
「…フィープは、奴の娘とは思えないほどに出来た子だった」
 まるで思い出話をするかのように、視線が揺らいで遠くを見る。
 そこにはどんな顔をした彼女が映っているのだろうか…。
「幼い頃から勉学も完璧にこなし、礼儀を自ら習い、どんな場所に連れて行っても他の貴族からの評判を買う子だった…。だが、魔法に関しては苦手だったのだろうな、ほぼ使えないといってもいい…、しかしあれにはそれ以上のものがあった」
 なんだって知っていた少女。
 世界の情勢から魔物の名前まで、広い分野で知識をそろえていた少女。
 この時代の教育もうけられない平民ではありえない、知力―――。
 彼女の知識量を知ったときに疑わなかった自分が不思議に思えるくらいだ。
 これほどの教育を受けたものが貴族でないはずは、ない…。
 しかし、潜在意識にて否定していたのかもしれない。
 こんなに明るく飛び跳ねる少女が、まさか貴族の中の貴族なのだと認めることを、どこかで拒否していたのかもしれない…。
「そんな中で、あれは封印魔法だけ使えるようにした。イシュト…使用人の彼に随分練習を付き合わせたようだったが…、暗殺対策にはもってこいの魔法だったからな」
 ふっとエディルの顔が笑った。
 なにかを諦めたようにも見える、そして少しだけ淋しそうな瞳…。
「それでその魔法の用途が『脱走』だ」
 まるで突然振り出した季節外れの雪のように。
 前触れもなく姿を消した、北の果てに住む雪の精。
 …ピュラは沈黙を守ったまま、視線を部屋の隅の暗がりにやっていた。
「――未だに意味がわからんのだがな。何故あそこまで現実を知っておきながら、無駄な行為に走ろうとは…」
「現実を知っておきながら?」
 エディルの瞳の色が深みを増し、黒髪と蓄えられた髭の顔の中で一際煌きを放つ。
「――あそこまで出来る子だと狙われることも多くてな。実際に何度も暗殺の危機に陥った上、―――あれの目の前でイシュトが暗殺者を切り捨てたこともある」
 頭の中を通り過ぎるのは痛烈な血のイメージ。
 飛び散る赤黒いもの、むせかえるような吐き気を催す臭い…。
「どんな貴族の裏に潜むものであったも、あれはその目で見ていた。全てを知っていたはずだった。―――なのに何故、突然家を出たりしたのか…」
 きろりとピュラの目線がエディルの方にやられる。
 まだ成人もしていないような少女に向かって、…エディルは言っていた。
「君はもしかしたら全て聞いているかもしれない。…そうでなくとも旅を共にした時点で、あれのことをよく知っていると思う。だから、…君の方から説得してはくれまいか?」
「…あの子がここに戻るように?」
「そうだ。君からの説得だったら応じるかもしれない。…もちろん謝礼はする、望みの褒美を与えてやっていい」
 言いながら、どさりと懐からだした袋を机の上に置いた。
 …中から金属音がする辺りからして金貨だろう。しかも袋はやっと片手で持てるくらいの大きさで…推測して中には数十万ラピス…いや、数百万ラピスにも及ぶ量が入っている…。
「こちらもなるべく穏便に事を済ませたい。人助けだと思ってやってはくれまいか?」
「………」
 ピュラは一度だけ袋の方に目を向ける。
 ――――その口元が……、笑った。
 少しばかり怪訝な顔をするエディルに向けて、彼女は言う。
「…だから貴族って好きになれないのよ」
 呟くような声は次第に強い声に変わっていく。
「…別にあの子は全てを語ったわけじゃないわ。そんな理由なんて聞いてないわよ。―――でもね」
 小柄な体から放出される、勢いをもった炎のようなものが部屋を焼いているようにさえ思えた。
 世界の流れに乗せて、娘は言葉を紡ぐ。

「…その話を聞いてると、あの子が出て行った理由……わかる気がするわ」

 そのときの彼女はまだ、今日が新月だということに気付いてはいなかった。


 ***


「本当に大丈夫か?」
「うん。…平気だよ」
 セルピは大きく頷いて、前を向いた。
 何かを誘うようにぎらぎら光を放つ貴族の館。
 まるで戦場に赴くかのように―――彼女自身は本当にそう思っていただろうが―――セルピは歩み始める。
 スイもそれ以上は何も言わなかった。
 セルピの斜め後ろで彼女の歩調にあわせる。
 …彼自身も本当はこんな場所に来ること事態、どんなに危険を伴うことになるか分かっている。
 もしも自分の顔を知る者がいたら―――、それこそ最悪の事態だ。
 …だが――、あの赤毛の娘という存在が彼を前へと歩ませる。
 もう止まるわけにはいかない。これはセルピの戦いでもあるが、自分の戦いでもあるのだ…。
 自己満足でもいい、ただ…また手遅れになってしまうのを防ぎたいだけ―――。
 戦慄が走る胸がざわめく。歩くだけの動作なのに、空気の抵抗を強く感じる。
 しかしそれでも前に進む。進むことができる。
 ―――急がねば、ならない…。

「何の用だ?」
 旅人の服装をした二人に、門番はあからさまに嫌そうな顔をする。
 当たり前だ、貧しい平民の相手など彼らにとっては御免被りたいものなのだから。
 セルピは何も言わずに皮袋から丁度小さな手に収まるものを取り出した。
 じゃら、と揺れる鎖がついたそれは金で出来た紋章。
 中央には天へといななく天馬と百合が細かく描かれていて、天馬の瞳の部分にはサファイアが埋め込まれていた。
 門番の目がそれを捕らえた瞬間、丸くなっていく―――。
 ―――間違いない、エスペシア家の家紋だ。
 それを彼女は門番にむけてかかげてみせて、言葉を紡ぐ。
「白馬にまたがり雪の中を駆け行く天子。これ、我らの祖である故に我らは君子なり」
 …貴族にはそれぞれ代々伝わる言葉がある。2年に一度、全ての家の者が集まって一家の団結を祈る時に使うものだ。
 そして彼女はエスペシアに伝わる言葉を流れるように唇に乗せ―――、
「フィープ・セル・エスペシアです」
 …門番の顔が呆気にとられたようになって―――すぐに肩を飛び上がらせてその場に跪く。
「も……っ、申し訳ございません! あなた様とは知らずにこの無礼…」
「それはいいですから、中に入れてください。それから…すぐにイシュトとお父様を呼んでくるように伝えて頂けますか?」
「はっ、御意のままに!」
 胸に手をあててもう一度彼は頭を垂れると、一目散に屋敷へ駆け込んでいった。
 …スイは極力静かに呟く。
「…この機会を利用するのか?」
「うん。くさびは早く切った方がいいから…」
 ―――エディルとイシュトと、三人で話し合う機会が欲しい。もう一度、話したい。
 草原でそう呟いたセルピの願いは、今この思いもかけない事態にて叶えられようとしている。
 セルピは小さく笑った。手の中のずっしり重い家の印を握り締める…。
「…今日、これを捨てられるといいな」
 何かの役にたつと思って、ずっと隠し持っていた紋章。
 いつの日か全てを断ち切れた日に、これを手放せると信じていた。
 …まだ。まだ終わってはいない。だからまだ捨てるわけにはいかない。
 紋章をまた皮袋に仕舞った。後ろを向いて、スイに笑いかけた。
「行こうっ」
「…そうだな」
 セルピは頷いて歩き出した。突然の来訪者に騒然としはじめる屋敷へ向かって…。


 ***


 扉は使用人たちによってセルピが開ける間もなく開かれた。
 ふわっと溢れてくる光。至るところに灯りが灯り、室内は真昼のように煌々と照らされている。
 そこには幾人…いや幾十人もの使用人たちが各々手を胸に当てて待っていた。
 まるで儀式が行われるかのように、その場は無音に守られる。
 緋色の絨毯の上に、彼女は踏み出した。一歩、二歩…。
 こんなものを踏むのは数ヶ月ぶりだ。落ち着かない心を必死で平常に保ち、視線は前だけに向けて進む。
「フィープ様、お部屋を用意しておりますのでそちらでお待ちくださいませ」
 …横から声が聞こえたが、セルピは視線すら向けることはない。
「いいえ、ここで待ちます。あなたたちは全員、席をはずしてください」
「はっ……? …で、ですが……」
「二度は言いません」
 その声は幼くあったが、それでいて言葉の強い圧力を持つ。
 使用人たちは不可解な顔をしていたが…、しかし上の身分の言葉に背けるはずもなく、静かに部屋を出て行った。
 こんなに小さな少女でも、後のエスペシア家の跡取りなのだ。その権限はエディルまでとはいかなくとも絶大なものになる。
 誰一人としていなくなった大広間の中央で、二人はぽつりと取り残されたような状態になった。
 セルピは少しスイの方に振り返って、かすかに笑う。
「…ごめんね」
「なにがだ?」
「貴族の立場を利用しちゃって。…見てて気持ちのいいものじゃないでしょ?」
「…気にするな」
「―――ありがとう…」
 小さく頷いて額にかかった髪を軽くかきあげる。
 大きな瞳が、上を向いた。

 ―――がたんっっ!!

「フィープさま…―――!!!」

 荒い足音と共に階段上の扉が勢い良く開かれ、転がるようにしてイシュトがでてきた。
 彼は手すりから乗り出すようにして、少女の姿を見る。
 …しかしそこで彼は言葉を失っていた。
 いつだって変わらないその姿。着ているものは旅の服装で古びてはいても、彼女の気品を隠すことはできない。
 なのに遠い。手をのばしても届かない、叫んでも嘆いても届かない…。
 何故突然来たのだろうか。…一瞬そう思って、―――自分の愚に気付く。
 彼女の連れを自分は無理な理屈をつけて連れ去ってしまった…。
 それは例えエディルの命令だったとしても、結局は幼子を裏切る行為をしたのだという自分に気付いて、嫌気がさす…。
 ―――もう、誰も許してくれないのではないかとさえ、思う。
 既に言い訳をする気も失せていた。
 ただ、彼は階段の上から彼女を呆然と見下ろし―――。
 小さな彼女の唇が、動く。
「…ピュラはどこにいるのですか?」
 聞きなれていたはずの声さえ、刃のように鋭かった。
 もしかしたら、もう彼女は自分のことが嫌いになってしまったかもしれない…。
 否、既に嫌われているのだという確信にも似た思念は既に彼の心を閉塞させるのに十分すぎるほどだった。
「……無事にしていらっしゃいます…」
 かろうじて喉が鳴る。しかしその喉もからからに渇いていて、呼吸が苦しい。
 いつだって少女を想っているはずなのに。
 彼女の為に、しているつもりなのに。
 そうしていくほど、雪の精は遠のいていく…。
「…イシュト……」
 彼女の声は、こんなにも心を切なくさせる。
 彼を傷つけるのは彼女ではない、…彼自身。見返りのない苦しみが、心を次々と蝕んでいく。
 どこにも逃げ出す出口のない、彼という迷い道。
 胸が痛い。眩暈がする。
 助けてほしいのに、誰も手を差し伸べてくれない…。
 思考に追いつく前に、心が彼の口を動かし始めた。
「…フィープ様………私は……」
 聞きなれた柔らかな声にセルピが唇を噛み締める―――。
 …イシュトの声は囁くように苦しく続けられた。
「あなたを守りたかった……」
「……―――」
 小さな声だというのに、呟きは広い部屋に、そして彼女の耳へと届く。
「7年前に初めてお会いしたとき、あなたに誓った筈です。―――この命にかえても、お守りすると……」
 そういって、彼は自分の右胸に手をあてる。
 忘れもしない7年前。幼い少女に跪いて、誓いの言葉を約束した自分の姿。
 そして顔をあげたときにみえた、あの優しく儚い微笑み―――。
 …ありがとう、となめらかな声で静かに言った、7歳の雪の精…。
 決して使用人以上の存在にはなれない。彼は貴族ではあったが、彼女とは格が違いすぎる。
 ただ、その才能を認められただけだ。
 しかし、それでもよかった。白百合のように静かで美しい少女に仕えられるのなら。
 朝の礼拝、朝食、昼の外出、夕方の散歩、夕食。たったそれだけで全てが語られてしまうようなことであったとしても…。
 少女の笑顔が見えるだけで幸せだった、のだ…。
 完璧にしていたつもりだった。
 いつだって気遣った。彼女の問いには何でも答えられるようにした。
 そして、ずっとずっと微笑んでいた―――。


 なのに、するりと腕から零れ落ちていった、白い花。


 そのなんともどかしい―――。


「…私のことを、お嫌いになりましたか……?」


 涙すら枯れ果てた、そこには何も残っていない。
 そう、なにひとつとして…。

 俯いていたセルピの顔が、あがった。
 フィープ・セル・エスペシア。
 北の果てに咲いた、雪の精霊。
 朝の泉よりも澄んだ瞳が何処かで潤む。
 小さな唇が、動いた…。

 最初かすれた声は、次第に肉声にかわり、そして彼女の嘆きへと。


「もしあなたがいなかったらと、何度考えたかわからない…」


 しかし涙の雫は零れずに、瞳の奥へと消えていった…。


Next


Back