『とある序詞役の戯言』 花の都のヴェローナに、勢威を競う二名門――。 はてはて。私は一体何度この文句を謳ったことやら。 おっと、申し訳ない。序詞役ごときが無礼な口を、大変失礼致しました。 しかし鸚鵡のように同じことばかり口ずさんでいては、時に戯れたくもなるというもの。この年寄りめの独り言、今しばらくご容赦頂けますよう。 そう。これは皆様ご存知、一人の男の筆から出ずるロミオとジュリエットの物語。美しく咲いては散る哀しい恋歌は、語るまでもなく皆様の胸に刻まれていることでしょう。憐れな二人の恋人たちは血潮を以って争う両家の不和を埋める。そう、これは哀しい物語です。この上なく救いようのない物語です。 ええ、ええ。私も虚しく乱暴で暴虐な話だと思っていますとも。けれど長い長い時間を語り継がれてきたのもまた事実。皆様が知っての通り、この戯曲は、多くの者に愛されたのです。運命という悪魔が二人の命に手をかけるその瞬間を、数多の瞳が望みました。望まれただけロミオもジュリエットも恋に落ちて死んでゆきました。物語が語られただけ、若者たちは死んでゆきました。 燃え上がるほどの無鉄砲な恋。自らではとても出来ぬをそれを、人が彼らに求めるのは仕方のないことでしょう。 不可避の運命に囚われた憐れな少女ジュリエット。 自ら鎖を伴って恋を謳い続ける愚かな青年ロミオ。 さあさあ……あなたはこの二人に何を思う? 哀れみ? 同情? それとも嫌悪? しかし二人の心は誰も知らぬ。望まれただけ生まれ、望まれただけ死んでゆく二人の想いは。 はい。そうですとも、仰るとおり。ロミオもジュリエットも実在しない、いわば紙の上の人間です。そのような人物がいかなる運命を辿ろうと、あなたの知ったことではないでしょう。 けれど、耳を澄ませてみませんか。生と死の円環に囚われた恋人たちの悲嘆の声、歓喜の声。 あるいは新たな世界を切り開くのかもしれませぬ。 さあ、始めましょう。幾度も語られたその戯曲。 手を取り合い悲劇を織り成す不幸な星の恋人たち。 恋と歌と血を以って語り継がれる、これは二人の戦いの物語。 心を込め、力を込めて謳いますれば。 ロミオとジュリエット、円環の二人。 語り尽くされた彼らの悲話を、何卒ごゆるり、ご高覧の程を。 |