-紫翼-

Lebewohl -心から愛する人にだけ使う言葉で、『ごきげんよう、また会いましょう』の意-



 よお、スアローグ! 良かったな、卒業できて。配属先は大丈夫なのか?

 うん、そうか。良かった。

 ええ? ……まあ、俺は、アレだ。そういう学歴とか気にしない世界に行くつもりだから。

 ふっ、そんなに褒めないでくれ。世界中の甘味を食い尽くしてやるぜ。

 お前も頑張れよ。その名が新聞に載る日を待ってるからな。

 あー、俺は逮捕されたって記事が載らないように気をつけないとな。

 ……お前、何故否定してくれない?

 はは。まあ、お互い頑張ろうな。

 うん?

 ああ。

 ああ、分かってる。

 ……。

 うん。ありがとうな。俺も楽しかったよ。

 じゃあ、またな。


 ――。


 ごふっ!?

 げほげほっ、ど、どうしたチノ?

 キルナ? いや、見てないけど。寮の方にでもいるんじゃないか?

 え。ああ、うん。

 あー。ごめんな、一緒に卒業出来なくて。

 ……。

 お前、ここ出たらどうするんだ?

 ああ、南に戻るのか。キルナも一緒か?

 うん、そっか。なんか寂しくなるな。まあ、たまに遊びに行くよ。

 ああ。約束だ。また皆でアナトール先輩んとこに行こうな。

 こ、こら、泣くなよ。別に今生の別れでもあるまいし……。

 じゃあな。キルナと頑張れよ。

 ああ。ちゃんと支えてやれ。きっと大丈夫だ。

 うん。またな。


 ――。


 ……。

 なんかとってもすごく嫌な予感がするんで、無視して通り過ぎてもいいですか。

 ……。

 ……はい。お久しぶりです、ダルマン先生。

 ええ……いえ。なんとか、戻ってきました。

 はい。

 スアローグに聞きました。色々してくれたみたいで……。

 俺は大陸から出るつもりでいます。

 ……。

 ……。

 あの、止めたりしないんですか?

 ……あ、はい。まあそうですけど。でも、えっと。

 俺、先生が言う通り、本物の無知です。だから、見てこようと思うんです。

 そうすれば、少しは自分で物事を考えられるようになるかなって……。

 はい。

 そう思います。現実が甘くないことも分かってます。一人で行くのは多分、辛いんでしょう。

 でも、そこにあるのはきっと悲しいことばかりじゃないですから。

 最期まで行くつもりです。

 ……。

 先生。

 お元気で。長生きして下さいね、あと風呂に入ってください。


 ――。


 おお、シア! あ、先輩も……。

 え? ……あ、あはは、その件につきましては、えーと、卒論が間に合いませんで……。

 ……はい。すいません。

 あ、もう一年いるわけじゃなくて、退学して都市を出ようと思ってるんだ。

 悪いな、シア。一緒に行けなくて。い、いや、首を絞めないで下さいお願いします。

 あ、ああ。わかってるよ。それじゃ……。

 え? なんですか、先輩。

 ……。

 ……はい。

 はい。

 分かってます。もう大丈夫です。

 そうですか? あんまり自分じゃ分からないですけど、――色々ありましたから。

 それに、今でも言えます。生きていて、楽しいって。

 ……はい。

 これからもぼちぼち頑張ります。グリッド先輩にもよろしくお伝え下さい。

 それじゃ、またいつか。


 ――。


 って、レンデバー!?

 え、ええ? な、なんで?

 ……え、ええ。

 はい、えーと、そ、その節はありがとうございます……?

 ……いや、卒業はしてないですよ。卒論提出日、とっくに過ぎてますし……。

 それに、してもしなくても変わりないですしね。

 でも、いくら助けてくれるっていったって、あのつまみ出し方は――。

 いや、まあ、そうですけどね。……軽く死にかけた程度で済みましたけど。

 それにしても、――あの、結局あなた、何者だったんです?

 ええ。政府の方とは思ってましたけど。

 ……ええ? 雇われてるだけ? 誰ですか、それ。

 ……。

 ……。

 へ。ヴェン――?

 え、ちょっと待っ、あ、レンデバー! ちょっと! それってもしかして大そ――。

 ……行ってしまった。

 ……。

 まあ、いいか……。


 ――。


 セシリア! おーい。

 よ。久しぶりだな。

 ……。

 なんだ、化け物でも見るような顔をして。

 え? いや、この通りぴんぴんしてるぞ。お化けでもない。

 ふはは。この俺様は死の淵から不死鳥のごとく蘇り、はるばるここまで――。

 いやすいません、そんな目で見ないで下さいすいません。

 ……。

 うん。なんとか逃げてきたんだ。

 あー、大丈夫。ここには立ち寄っただけだから。迷惑にならない内に出てくよ。

 ああ。この国からも出るつもりだ。ほとぼりが冷めるまで帰ってこれないだろうなあ。

 お前は大丈夫なのか?

 ……。

 そっか。まあ、それなら良かった。お前はちゃんと真っ当な人生送ってくれよ。

 そんな顔するなって。別に、死地に赴くわけじゃないんだ。

 ああ。ありがとな。

 うん、また。


 ――。


 お。キルナ。さっきチノが探してたぞ?

 ああ。寮の方に行ったけど。え? 俺を探してる人がいたって?

 女の人……? ああ、わかった。あとで探してみるよ。

 そういやお前、教師目指すんだって? チノに聞いたぞ。

 そうか、お前が教師か。恐ろしいな――ごふっ!!

 ……ひ、久々にお前の蹴りをくらった気がする……。

 え、俺?

 うん。まあ、何をやるってまだ決めたわけじゃないけど。

 でも、色々見て、探すよ。

 あいつとの約束だしさ。

 ……。

 ……ああ。

 うん。だから、ちゃんと守るつもりだ。

 うん。

 そうだな。また会おうな。

 うん。じゃあな。


 ――。


 よお、ティティル。どうした、元気ないぞ。

 なんでもない? そうか? でも心なしか――。

 あ、ああ、分かった。分かったから。

 ん。暫く会えなくて悪かったな。ちょっと遠出してたんだ。

 これから? ……うん、また、都市を出るつもりでいる。

 い、いや。また戻ってくるって! だからそんな顔しないでくれ。

 な?

 ああ。約束だ。

 うん、どうした?

 ……。

 お前……。

 うん。

 うん、そっか。

 ああ。そうだな、そいつの為にも、頑張らないとな。

 頑張らないとな……。

 ん?

 ひっ……は、ハーヴェイさん……!

 ど、どどどどどど、どうも……ご無沙汰して、おります……。

 いえ、今殺されても文句は言いません。

 煮るなり焼くなりなんなりと……。

 え?

 あ、はい。なんとか元気です。

 ……えっと。

 はい? そんな、無断欠勤の嵐でしたけど、俺。

 ……。

 はい。

 はい。ありがとうございます。

 あの、ハーヴェイさん。

 本当にありがとうございました。楽しかったです。

 ……はい。失礼します。


 ――。


 おお、エディオじゃないか。どうした。

 俺を探してる人がいる? そういやさっき、キルナも言ってたな。

 噴水前にいるんだな。分かった、行ってみるよ。

 ああ。うん。

 決めた、というか選択権なしで逃亡決定なんだけどさ。色々なものを見るいい機会だと思ってる。

 お前はどうするんだ?

 ……ん。そっか。

 ああ。お前ならきっと患者を恐怖させながらも名医と呼ばれる男になれると思うぞ。

 いや、なんでもないです。んじゃあ、すぐに配属か?

 ええ? ……へえ、育成機関ねえ。大変だな、お前も。

 はは。うん、そうかもな。せいぜい野垂れ死にしないように頑張るって。

 ああ。……親父さん、いつか釈放されるといいな。

 ん。そうだな。いつか……この国で、俺の存在が許されるようになったら。

 そうしたら、戻ってくるよ。

 ああ。

 元気でな。


 ――。


 ……。

 ……。

 ……。

 え?

 ああ――はい。

 俺がユラス・アティルドですけど。

 ああ、いえ。すいません、探させてしまったみたいで。

 あ、はい。少し散歩してたんです。ここも暫く見納めになるなって……。

 それで、ええと、なんでしょう?

 ……。

 え?

 あなたは――。




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