-Bitter Orange,in the Blaze-
下・強いひかりの中に 九.戦慄の走る時

112.Cross-out



 まるで目もとまらぬような動きだった。
 嵐のように押し寄せてくる敵を、次々と薙いでいく。
 その手に煌くのは大振りの剣。しかし重さを感じていないかのように軽々と使いこなしてみせる。
 剣を振るう速さは神速といえるほどだ。
 ―――まさにそれは、孤高の銀髪鬼の再来と呼ぶにふさわしかった。
 剣を振りかぶった男がスイに襲い掛かる。
 しかし、スイの左手が剣の切っ先よりも早く相手の腕を掴んでいた。ぐい、と体重をかけるように力を入れると、骨の折れる嫌な音と共に相手のうめき声が漏れる。
 そのまま男は剣を手放し、地に伏した。しかし次の瞬間にスイは振り向いて、こちらに振り下ろされた剣を受け止めている。
 次にスイが切り返した刹那、敵は冗談のように宙を舞って地に叩きつけられていた。クリュウの魔法が炸裂したのだ。
 スイは辺りにもう襲ってくる敵がいないことを確認してから、素早く一度建物の中に身を隠した。
 いつ矢が飛んでくるかもわからないのだ、油断は出来ない。
 現在スイは敵の主力部隊を避けるようにして北の端から大きく迂回して進んでいる。
 その為、まだまだ敵の陣は――遠いのだ。
「スイ、左からくるよ」
「ああ」
 急いで降りてきたクリュウはそれだけ伝えると、再び空へ飛び上がった。
 次から次へと敵は休む暇もなく湧いてくる。
 それも一部隊が十数人で組まれているのだ、一回の戦いの度に幾度も肝を冷やすこととなる。
 もう今の戦いで本日3つ目の部隊を蹴散らしていた。クリュウとしても魔法の連発は体に負担がかかる。少々体の気だるさを覚えていた。
 しかし彼はそれでも小回りのきく体をいかして、うまくスイが前方から来る敵に見つからず逃げられる道を探した。
 背後にはこちらの部隊が潜んでいる。スイとクリュウの負担を減らすために、なるべく戦いはそちらに任せるようにといわれているのだ。
 ただ、この辺りは道も狭く、敵の目を盗んで先へ進むのはかなり難しい。
 どこかに良い横道はないだろうかと、クリュウはあちこちに視線をやった。
(…ピュラたちは無事かな)
 ふと、そんなことを考える。
 彼女たちは実戦には参加していないはずだ。後方の地帯にいるだろうから、きっと安全だろうが―――。
 …どうにか敵を切り抜けられそうな道を見つけて、クリュウはスイに進むべき道を示した。
 そうして小さな体を翻すとそっと敵に近寄って、近くの影に身を潜める。
 ざっざっ、という敵の足音が近付いてくるのを音で感じ取った。敵も慎重に進んでいるようで、その動きに隙は……ない。
 スイが先に行くまで彼らの意識をこちらにひきつけておかねばならないのだ。クリュウは、今にも飛び出しそうになる心臓を落ち着け、大きく深呼吸すると――意を決したように唇を噛み締めて道のど真ん中に躍り出た。
 小さな彼の体でも、それは確かに相手の目にとらえられる。
「―――よ、妖精っ!?」
 その直後、クリュウの放った魔法が彼らに向けて突き抜けていった。
 それで相手もクリュウが敵なのだと認識したらしい、一斉に雨のように矢がこちら目掛けてとんでくる。
「うわわっ!」
 たとえそれがスイを敵の目から離すためでも、怖いものは怖い。
 小さな体が幸いして、クリュウは矢の嵐の中でも無傷で後方へと飛びさがる。
 そんな妖精の姿を見失った部隊は緊張を張り巡らせながら、ゆっくりと前進を開始した。もうスイはその後ろに進んでいるというのに……だ。
 どうやら作戦は成功したらしい。クリュウはひとまず物陰でほっと胸を撫で下ろす。
 あとはこの先に潜む味方たちに任せればいい。再びスイの元へ戻ろうと、クリュウは彼の姿を探し始めた。
 …そうしているとまもなくして後方で交戦の騒ぎが聞こえてくる。
 しかし、振り返ってはならないのだ。そうしたらきっと弱い自分は、立ち止まってしまうから…。
 スイはどの辺りまで進んだだろうか。
 一度敵の前に姿を現したこともあって、高く飛び上がるのははばかられた。
 せまい横道を通って、見慣れた姿を探す。
 気配を隠すのが得意なスイだから、わずかな空気の乱れを妖精特有の長い耳をぴんと張って察知しようとして―――。
 ―――瞬間、クリュウの視界は突然黒に覆われた。
「――えっ?」
 何か大きな塊が覆いかぶさってきた……否、飛んできたのだ。
 目を見開いた瞬間には魔法のようなものに巻き込まれて飛んできた塊と一緒に、家の壁に叩きつけられている。
 最初に息が詰まるような衝撃、直後にむせかえるほどの激痛が体を襲っていた。
「なっ、なにっ!?」
 とっさに治癒魔法を唱えながら状況を確認すると……悠長に回復などしている場合でないことに気付く。
 クリュウを巻き込んで吹っ飛んだ塊は―――スイ本人だったのだ。
「―――スイっ! 大丈夫!?」
 魔法の直撃をくらったのだろうか。体のいたるところに傷を負った彼は、それでも剣を手放すことなく立ち上がろうとしている。
「―――ああ」
「ひどい怪我…っ、」
 クリュウはそうして、スイが飛んできた方向をとらえた。
 ……ひとが、ひとり。そこに佇んでいる。
 その瞬間、背筋が凍り付いていくのをクリュウは感じていた。
 ローブに身を包んだ魔道師だ。……恐らく魔法を使ったのは彼に間違いないだろう。
 顔が半分隠れるほど目深な紅いローブにウッドカーツ家を表す、大樹にからみついた蛇の紋章が刻まれている。
 …ウッドカーツ家のほこる魔道師部隊の中でも、一番位の高い法衣だ。
 普通、運動能力に長けない魔道師をひとりで敵と戦わせるなど自殺行為と思われるが…、これほどの高位になれば単独行動も軽くこなしてみせる。
 偶然とはいえ、この遭遇は危険に違いなかった。早くスイを逃がさなければならない。
 クリュウは急いで先ほどの風の魔法で切り裂かれたスイの傷に手をかざそうとするが、魔道師がそれを許さなかった。
 フードを目深に被った彼の手が軽く持ち上がり、口元がかすかに動いたかと思えば空気の流れが一気に揺さぶられたのだ。
 それはたちまち巨大な複数の刃となってこちらに襲い掛かってくる。
 叩きつけられたときに切ったのか、口の端から滴る血をぬぐう暇もなくスイは横に飛んだ。
 その後ろからクリュウが光の膜を放って刃を防ぐ。刃はそこに当たって盛大な煌きをまき散らす。
 しかし、敵の力量もかなりのものだ。
 ギィン、ギィン、と刃が膜に当たるたびに体中がしびれるような衝撃を覚える。
 それでもクリュウはスイが飛び込んだ横道の様子を伺って、彼の傷の具合を確かめた。
 スイは痛みにかすかに顔を歪ませながらも、一番酷い足の傷に手早く包帯を巻いている。
 本来なら他にも包帯を巻いておくべき箇所も沢山ある。ひとつひとつは小さいが、よくよくみれば至るところに切り傷をつくっていた。
 恐らくは体中の肌が痺れるような痛みを感じているはずだ。きっとあの魔道師に出会い頭に魔法を使われたのだろう。
 あれだけの力量を持っていれば、ほぼ一瞬で詠唱なしにある程度の魔法を使うことが可能だ。
 一刻も早く治癒したいのだが、クリュウは敵の攻撃を防ぐのに精一杯で手がはなせない。
 すると魔法師は一度小さく舌打ちをして魔法を止める。違う魔法に切り替えようとしているのだ。
 再び彼の手の内に集められたエネルギーの塊は…―――。
 ―――刹那、クリュウはびくりと肩を震わせた。さあっと血の気がひいていく。
 魔道師の手から生み出されているのは炎の魔法だった。妖精は元々樹の精霊だ。炎を最大の弱点とし、包まれてしまえば死は免れない。相手はそれを知っているというのか―――。
 逃げなくてはならない。しかし逃げようにも、背後にはスイ。
 狭い横道だ、スイが逃げ切る前に魔法はこちらにたどり着くだろう。
 自分が逃げれば、確実にスイに魔法があたる。ここから離れるわけには、いかない……!
 しかし後ろからそれを察知した声がとぶ。
「クリュウ、逃げろ」
 いつもよりも少し厳しい口調だった。クリュウの顔が恐怖との葛藤に歪む。
「だっ…だめだよっ! だってスイが――」
「いいから行けっ」
 ――直後、爆発的なエネルギーが生み出す炎の魔法が完成していた。
 その場一帯が灼熱の地獄へと変貌する。冬も近い風が瞬時に熱風へと変わり――、
 瞬間、炎の柱が唸り声をあげながらレムゾンジーナの一角に突きあがった。
 恐ろしい勢いのエネルギー放出。誰もがその刹那、そちらの方向へ顔を向けたほどのものだ。
 炎の柱は天へと還るかのごとく突きぬけ、その一帯…半径数メートルを荒地に変貌させ、消えていった。
 あとに残るのはすすけた荒地のみで―――。

 …クリュウは思わず自分自身の体を抱きしめていた。あの炎に包まれていたらと思うと心底ぞっとする。
 しかし、次の攻撃がくることも考えずに彼は飛び上がっていた大空から再び、街の中へと飛び込んでいった。
 あの瞬間、スイが一瞬『大丈夫だ』と呟いたのを信じて飛び上がり、空へ逃げられたはいいものの……スイは一体どうしただろうか。
 すっかりその横道はがれきの山と化してしまっている。まさかと思うと、心臓を握りつぶされたような気分になる……。
 本当に彼の言った通りに逃げて良かったのだろうか。
 大丈夫だと彼は言ったが、一体どうやってあの魔法から逃れたのだろうか――。
 七色の羽根を太陽に煌かせながら、クリュウはスイの姿を探す。
「スイ……――う、うわっ!!」
 刹那、クリュウは殺気を感じて慌てて飛びのいていた。するとコンマ1秒の差で目の前を炎の矢が通り過ぎていく。
 その出所に目をやれば、魔道師を再びエネルギーを集束させながら佇む姿があった。
 ただ、先ほど大きな魔法を使ったためにさすがに精神力を消耗しているのか、威力は小さめだ。
 しかし炎の魔法を使われるのはやっかいなことこの上ない。
 早く……早く、スイを助け出さなければならないのに、だ…!
「…このっ!」
 クリュウは歯を食いしばって両手に力の流れを引き寄せた。
 相手は自分の何百倍もの大きさがある人間。…そう、人間なのだ。
 しかし、スイを守るために戦わなくてはならない。
「―――精霊の御名において」
 無理矢理かきあつめた力を氷の刃として空中から放つ。
 続いて左手を再び空高くつきあげて、渾身の力を込めて振り下ろした。――雷の魔法だ。
 巨大な剣となった稲妻が空気を切り裂き、相手に氷の嵐と共に降り注ぐ。
 しかし、相手の魔道師の魔法が完成するのもほぼ同時だ。双方の解き放った空気の流れがぶつかりあって、衝撃波すら生み出す。
 その間にもクリュウはすかさず次の魔法を繰り出していた。
 激しい力のぶつかりあいに、空気が震えているのが肌でわかる。
 クリュウは目まぐるしいその流れに吐き気を覚えながらも、力を前に押し出し続けた。
 ここで負けるわけにはいかないのだ。双方譲らず、暫く戦いが続く。
「妖精もここまで魔法が使えるとはな」
 ぽそっと魔道師は口の中だけで呟くと、更にその集中力を強めた。
「しかし、これはどうかな」
 次の瞬間、彼の周りに小さな光の粒が生まれる。
「……えっ?」
 クリュウは思わず目を瞬かせて辺りを見回した。
 ひとつふたつ、…まるで瞬く星のようにみるみる数が増えていき……、無数となった、それは――。
 ―――クリュウ目掛けて、一気に解き放たれた。
 目にも留まらぬ速さでその方向へと、四方八方から襲い掛かる―――!
「なっ……!」
 クリュウは慌てて回避するために身を翻した。なにしろ魔法で回避するにも四方八方からだときついものがある。
 そうして運良く光の粒を逃れることは出来たが、魔道師の口元の歪むような笑みは消えない…。
 彼の指が不意に、ぱちん、と鳴った。
 直後、クリュウの顔から血の気がひく。信じられないことが起こったのだ。
 彼が先ほど避けたはずだった光の粒が消えることなく、再び大軍を成して蜂のように襲い掛かってくるのだ。
「わっ…わぁああっっ!!」
 とっさに彼が詠唱なしで魔法を放っていなければ、クリュウの体は跡形も残らぬほどに吹き飛んでいただろう。
 空中で光がはじけ、その欠片をまき散らせる。その中から素早く飛び出した影があった。――クリュウだ。
 しかし一秒の間隔もおかずに次々と再び光の粒が彼を追うように飛び出していく。
 先ほどよりも数は減ったが、クリュウ一人を焼き消すのには十分すぎるほどの量だ。
 逃げながらもクリュウは応戦を試みるが、追いつかれてしまうのも時間の問題だった。
 それを痛いほどに悟り、…しかしそれでも諦めきれないクリュウが唇を噛んだ…その刹那。
 ―――ふっと、空気中に満ちていた力がゆるんだ。
 自然とクリュウの瞳が見開かれる。突然、自分に向かって襲い掛かってきていたはずの光の粒が嘘のように消えたのだ。
 クリュウは怪訝そうな顔をして術者の方へ視線をやった。一体どうしたのか―――。
「―――っ!」
 その光景をとらえた瞬間、彼は弾かれたように急降下していた。
 降り立ったその場に広がるのは紅い血だまり。その中央に魔道師が伏している。
 そして、その横に佇んでいるのは……。
「スイっ!」
 クリュウは涙目になって彼の名を呼んだ。紛れもなく、そこにいるのは蒼髪の彼の姿だ。
 爆風にやられたのか全身ぼろぼろではあったが、しっかりと二本の足で立っている。
 魔道師がクリュウとの戦闘に気をとられているうちに近付き、隙を狙ったのだ。
 クリュウは魔道師の亡骸に目をやって唇を噛む。確かにこうしなければこちらが殺されていた。しかし―――。
 ただ、今は立ち止まっていられる時ではないのだ。
 クリュウはスイを見上げて、小さく笑いかけた。
「良かった……スイ、大丈夫だった?」
「…なんとかな」
 あのときスイは、とっさに横道から壁を伝って飛び上がり隣の家の窓へと突っ込んだのだ。
 爆風に吹き飛ばされてしまったが、直撃を免れただけでも幸運だったろう。あと窓に身を滑らせるのが1秒でも遅かったら今ごろ別の結果が待っていただろう。
 よくよくみればすっかり傷だらけのスイの姿にクリュウは顔をしかめて、すぐに魔法を唱え始めた。
 先ほどの戦いで集中力を根こそぎ使ってしまい、体に溜まる疲労感で視界すらかすかにかすんでいたが、それでも詠唱を紡ぐ。
「大きな傷は?」
 ひとまず足の傷を治すと、クリュウは問う。
 スイは、いつもと変わらぬ様子で言っていた。
「あばらが2本ほど」
 ……。
 ………。
「う……っ」
 クリュウの顔が、蒼白になる。
「うわーーーっ!! どこ、見せてっ!」
 一気に安心から不安のどん底まで叩き落されたようで、クリュウは羽根をばたつかせながら思わず叫ぶ。
「ひびが入った程度だから大したことはないと思うが」
「大したことあるよーっ! 内臓にでも突き刺さったらどうするのっ!」
 確かに先ほど、あれだけの魔法をくらったのだ。
 この程度で済んだのは幸いといえたが……。
 ――不意にクリュウの長い耳がぴくり、と傾いだ。
 スイもとっさに剣を構えなおす。
 近くに何かの気配がしたのだ。しかも……複数。
 ―――かこまれている?
 先ほどの交戦で集まってきたのかもしれない。
 あれだけ大きな魔法で戦いあったのだ、敵の意識がこちらに向くのは当たり前だろう。
 スイとクリュウはがれきの影に姿を隠しながら様子を伺う。
 その間にもクリュウは治癒魔法に徹していたのだが、あまりにスイの傷が多すぎる上にクリュウ自身もかなり精神力を消耗しているのだ。それは集中力を奪い、判断力まで失ってしまうことになる。思うように回復ができない。
 少し休まないと、次の応戦は切り抜けられそうになかった。
 …しかし、辺りに集まってくるのは明らかな…殺気。
 向こうもこちらを探っているのだろうか、気配は四方八方に10人以上あるように思える。
 ここで待っていてもいつかは見つかってしまうだろう。その前になんとかして切り抜けなくてはならない。
「スイ……」
 心配そうなクリュウに視線だけで返して、スイは再び剣を握りなおす。
 そのまま歩き出して――体を流れるようにして続けた。
 風がうなり、手にした剣によって引き裂かれる――。
 ―――突然がれきの影から飛び出してきたスイに驚く男がひとり、地に伏す。
 しかしスイは次の行動にでていた。降り注いでくる矢を避けて、腰から短剣を引き抜いて投じる。そのまま再び別の横道へ――。
「そっちに行ったぞ!!」
「ひとりだ、逃がすなっ!」
 走り出したスイに向けて誰かがそう叫んだ。すぐさま敵の意識がこちらに向き、各々駆け出してくる。
 …しかし彼らがスイに追いつくことは叶わない。
 空中からクリュウの魔法が発動したのだ。
 威力は弱いが、彼らの行く手を阻むことくらいはできる。
 このままここを切り抜けられれば―――。
「―――っ」
 スイの足が丁度横道からでたところで突然、止まった。
 もしもあと数歩踏み出していたら、敵の刃にかかっていたかもしれない。
 先回りされていたのだ。目の前にそれぞれ剣を携えた剣士が立っている。
「うわぁっ!」
 声が鼓膜を叩いた瞬間、スイはとっさに振り向く。
 クリュウが敵の魔法に押されて飛ばされたのだ。
 やはり先ほどの戦いがこたえているらしかった。
 そのクリュウがいた方向…つまり背後から、また魔道師――先ほどの程の者ではないが――がゆっくりと歩いてくる。
 完全に挟まれている。逃げられる距離ではない。
「す、スイ…」
 ふらふらとクリュウが肩口に掴まってくる。すっかり息があがってしまっていて、これ以上の戦いが無理だということを示していた。
「平民ぶぜいが、貴族に逆らえないことを教えてやる」
 にやりと目の前の兵士の口元に残忍な笑みが走った。どうやって倒したものかと、他の剣士たちも剣を構えながらこちらをなめ回すように眺めてくる。
 背後の魔道師もまた、詠唱に入ったようだった。もう、逃げられない。
 …スイは剣を握りなおしてじっと目の前を見据えた。
 もし、兄だったら。
 …兄がここにいたら、どうするだろうか―――。
 その時だった。
 空気を揺るがす爆音。心臓を鷲づかみにされたような振動が辺りを支配する。
 ぴん、とスイの瞳がはじけた。
 敵たちもまた、その轟音に眉をしかめ―――。
 直後に、何かが辺りの家や壁を手当たり次第に破壊しながら突っ込んできた。
 それも、生易しいものではない。完全に壁を突き破って、スイと目の前の敵とを分断するように進み家へと突っ込んで――。

 辺りは一瞬にして、がれきの山と化していた。


Next


Back